金融機関等の相続手続について
相続においては、ほぼ必ず、金融機関の手続が発生します。
司法書士は、依頼者に対し、登記を中心とした相続手続を依頼された際、手続の内容について説明します。「遺産分割協議が必要なこと」、「必要書類として戸籍謄本等が必要なこと」などの説明はもちろん、時には「法定相続分」といった基本の考え方なども説明することもあります。
また、司法書士として、どこまでの業務を担当するのかについても説明しますが、いわゆる東京、大阪といった大都市と、浜松市のような地方都市では、司法書士の業務範囲が異なるように感じられます。
10年位前より、司法書士の新しい業務として、「遺産承継業務」というものが、認知され始めました。遺産承継業務では、司法書士が中立的立場で、相続人全員から委任を受けたうえで、遺産を、遺産分割協議の内容にしたがって、各相続人に分配していきます。つまり、各金融機関、証券会社等の相続手続も司法書士が代理することとなります。
この遺産承継業務は、各相続人が遠方におり、また、金融機関窓口も電車等でわざわざ赴く必要があるなど手間がかかる大都市では、比較的ニーズがあるようです。遺産承継業務の一つの利点は、中立な資格者である司法書士が入ることにより、安心して預貯金を分配できる点ですが、大都市では、被相続人が遠方で亡くなるなど遺産の状況が不明なことも多く、また、相続人間のつながりも比較的薄くなりがちであると想定できることなどが、利用の多さに繋がっているのかもしれません。
しかし、浜松市のような地方都市においては、被相続人と同居していたなど、相続人の全員が比較的近くにいることも多く、また、車社会ということもあり、地元の金融機関に赴くことは手間ではありません。そのため、あえて司法書士を介さず、金融機関の手続は、相続人自身が行うことが通常です。
実は、私も、これまで何度か、金融機関の手続について代理して欲しい要望を受けたことがありますが、その分別料金になってしまうこと、手続自体は難しくないことなどを説明すると、大抵、「自分でやる。」と皆さん仰います。
実際、皆さん、ご自身で手続され、滞りなく手続を完了されています。
そうした浜松市の傾向もあって、金融機関の相続手続は、特段難しくないという思いを持っておりますが、知らない手続をするというのも不安に感じるものです。そこで、金融機関の相続手続について以下で説明いたします。
金融機関の相続手続
浜松市には、主に以下の金融機関が存在します。
浜松市在住の方であれば、いずれかの金融機関の口座があるでしょう。
- 静岡銀行
- 浜松磐田信用金庫
- ゆうちょ銀行
- とぴあ浜松農業協同組合
- 静岡県労働金庫
- 遠州信用金庫
- 静岡中央銀行
- 清水銀行
- スルガ銀行
- その他都銀
- その他ネット銀行
このように、金融機関はたくさんありますが、どの金融機関でも相続手続は一緒です。
まず、相続人のうち1名が、各銀行の窓口に行きます(ネット銀行は郵送でのやりとりが必要)。全員で行く必要はありません。なお、その際に、被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本(または除籍謄本)及び自身の戸籍謄本を持参します。戸籍謄本を持参せずに赴いても、手続できませんので、ご注意ください。
「被相続人が亡くなったので、手続の書類をください。」と伝えると、「相続手続依頼書」などの名称がついた金融機関所定の書類を受領できます。
ゆうちょ銀行も最寄りの郵便局窓口に行くと手続書類をもらえます。ゆうちょ銀行の場合、手続自体は、名古屋の事務センターで一括して行っているため、後日、郵送などをする必要もありますが、最初に窓口に行くのは一緒です。
あとは、その「相続手続依頼書」に記入し、以下で説明する必要書類を一緒に提出することになります。
金融機関の相続手続の開始方法
被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本及びご自身の戸籍謄本(抄本)を持参し、各金融機関の窓口に行くと、「相続手続依頼書」などの名称の申請書を受領できます。この申請書には、原則、相続人全員の署名押印が必要であるため、一度持ち帰り、相続人全員の署名押印をしなければなりません。
つまり、窓口に1回行くだけでは、手続は完了せずに、再度、必要書類を持参し、窓口に行かなければなりません。
しかし、何度も足を運ばずに、スムーズに手続を行うことも可能です。以下の「どのタイミングで金融機関に行くべきか」と題した説明をご覧ください。
金融機関の相続手続必要書類
- 遺言書(有る場合のみ)
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍、除籍謄本等 各1通
- 相続人全員の戸籍謄本(抄本でも可) 各1通
- 相続人全員の印鑑証明書(6か月以内) 各1通
- 「相続手続依頼書」などの各金融機関所定の書類 1通
- 被相続人名義の通帳
原則、必要書類は、上記のみです。(その他裁判による調停、遺言執行者がいるなどの場合に若干異なります)
遺産分割協議書の有無
相続が発生すると、遺言書がない場合、相続人が一人しかいない場合を除き、相続人全員で、遺産の帰属先を決める「遺産分割協議」を行う必要があります。私のような司法書士が、相続人全員の意向を確認したうえで、遺産分割協議書を作成し、そこに相続人全員が、署名及び実印にて押印することとなります。
遺産分割協議書は、不動産の相続登記にも添付書類として必要ですが、金融機関の相続手続でも使用できます。
「使用できる」と記載したのは、金融機関においては、この遺産分割協議書がなくても手続が可能となっているからです。
遺産分割協議書がない場合、「相続手続依頼書」などの金融機関所定の手続書類に、相続人全員が署名及び実印にて押印していくこととなります。この手続書類は、相続人のうち1名を代表者として、その者が手続することを承諾するといった内容であることが通常です。手続完了後、被相続人の預貯金が、代表者の口座に全額入金されます。
遺産を確定的に特定の相続人に帰属させたことの証明となる遺産分割協議書とは、厳密には異なる場合もありますが、遺産分割協議書がなくても手続が可能となっています。
相続手続依頼書とは
相続手続依頼書(名称が異なる場合があります)とは、各金融機関所定の相続手続申請書のことです。
内容は、上記のとおり、相続人のうち1名を代表者に定め、その者の口座に預貯金が入金されることを他の相続人が同意する内容であることがほとんどです。この手続により、被相続人の預貯金は、代表者の口座に全額入金されます。
遺産分割協議書が有る場合と無い場合、いずれも記入の必要がありますが、以下のとおり、若干記入の内容が異なります。
一般的な相続手続依頼書(金融機関所定の書類)の記入について
態様 | 実印にて押印すべき人(要印鑑証明書) |
遺産分割協議書なし | 相続人全員 |
遺産分割協議書あり | 預貯金を取得する相続人 |
公正証書遺言書あり(遺言執行者あり) | 遺言執行者 |
公正証書遺言書あり(遺言執行者なし) | 預貯金を取得する相続人 |
裁判による場合(調停、審判) | 預貯金を取得する相続人(要裁判関係書類(調停調書など) |
どのタイミングで金融機関の手続を行うべきか
当事務所のご依頼者の中には、事務所に来所頂いた時点では、すでに預貯金の手続は完了していて、相続登記だけを依頼される方もいます。
つまり、「相続手続依頼書」などの金融機関の書類に署名押印し、預貯金が代表者である相続人の口座に入金された後に来所されたことになりますが、相続登記のために、再度、私が作成する遺産分割協議書に署名押印をすることとなります。
遺産分割協議書には、相続人全員の署名押印が必要となります。金融機関の「相続手続依頼書」も、遺産分割協議書がない場合、相続人全員の署名押印が必要となります。したがって、相続人全員の署名押印を、金融機関の数に応じて、二度以上しなければならないわけです。
もし、これが手間と感じられるようであれば、金融機関の手続は、不動産の名義を変更した後に行う方が、スムーズな手続が可能となります。もちろん、金融機関の手続をするまでは、被相続人名義の預貯金口座は凍結されているため、引き出すことはできませんが、すぐに金員が入用でないのであれば、相続が発生した時点で、まず金融機関に行くのではなく、司法書士事務所に来られる方が、二度手間になることもなく、円滑に手続が進めることができます。
預貯金についての帰属先を定めた遺産分割協議書を作成してから金融機関に行けば、「相続手続依頼書」に相続人全員の署名押印をする必要はなく、預貯金を取得する相続人の署名押印のみで済みます。
つまり、預貯金を取得する相続人が、遺産分割協議後、遺産分割協議書、戸籍謄本等、印鑑証明書などの必要書類を持参すれば、何度も金融機関に足を運ぶ必要もなく、1度で手続が完了します(ただし、金融機関によっては、即日、処理が完了せずに、数日かかる場合もあります)
預貯金についての帰属先を定めた遺産分割協議書がある場合の金融機関手続
金融機関所定の「相続手続依頼書」に署名押印するのは、預貯金を取得する相続人のみになるため、全員の署名押印をもらう必要はありません。
そのため、遺産分割協議書作成後に、金融機関での手続を行う方が、各金融機関毎に相続人全員が署名押印するよりも、効率的に相続手続を行えます。
但し、印鑑証明書は、遺産分割協議書上の実印の印影を確認する必要があるため、相続人全員のものが必要です。