【改正民法】令和5年4月1日施行③【相続関連】

相続財産の保存

第897条の2(相続財産の保存)

家庭裁判所は、利害関係人又は検察官の請求によって、いつでも、相続財産の管理人の選任その他の相続財産の保存に必要な処分を命ずることができる。ただし、相続人が一人である場合においてその相続人が相続の単純承認をしたとき、相続人が数人ある場合において遺産の全部の分割がされたとき、又は第九百五十二条第一項の規定により相続財産の清算人が選任されているときは、この限りでない。

 第二十七条から第二十九条までの規定は、前項の規定により家庭裁判所が相続財産の管理人を選任した場合について準用する。

民法

 旧民法においては、相続人が財産を管理できない場合に、状況に応じて(①相続の承認又は放棄前②限定承認後③相続放棄後の次順位者への引継ぎ前)、裁判所が相続財産の保存に必要な処分ができる旨の規定をおいていました。しかし、時代の変化とともに、相続人が不明な状況や相続人は明らかで相続の承認は確実であっても遺産分割協議が進まない状況など、財産の管理が不適当な場合も生じていることから、裁判所が、いつでも、相続財産管理人の選任その他必要な処分をすることができる本条が整備されました。なお、相続の承認又は放棄前に必要な処分を命ずることができるとしていた第918条(相続財産の管理)第2項及び第3項は、削除されました。

 また、これまで、第952条において、相続人が明らかでなく、相続財産が法人化した際に、裁判所によって相続財産の清算を目的とした相続財産管理人が選任される旨の規定が置かれていましたが、こちらの名称は「相続財産清算人」と変更されています。

 本改正により、裁判所は、相続人が明らかでない場合、明らかであっても相続財産の管理が不適当な場合などの各状況に応じた包括的な処分を命ずることができるようになりました。

 なお、第27条から第29条の規定とは、不在者財産管理人の職務、権限、報酬等の規定です。

  • 第27条(管理人の職務)
  • 第28条(管理人の権限)
  • 第29条(管理人の担保提供及び報酬)

 このうち第28条においては、第103条に規定する権限を越える行為を行う際には、裁判所の許可がいる旨が明記されています。第103条は以下のとおりです。

第103条(権限の定めのない代理人の権限)

権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する。

 保存行為

 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為

民法

第940条(相続の放棄をした者による管理)

相続の放棄をした者は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人又は第九百五十二条第一項の相続財産の清算人に対して当該財産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産を保存しなければならない。

 第六百四十五条、第六百四十六条並びに第六百五十条第一項及び第二項の規定は、前項の場合について準用する。

民法

 これまで、相続放棄をし、次順位の相続人がいない場合には、最後に相続放棄をした人には管理義務だけが残り、過剰な負担となる場合がありました。本条では、「現に占有しているとき」という文言が追加されたことにより、占有していなければ管理義務を負う必要はなくなりました。なお、旧法では不明瞭であった「その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、管理を継続しなければならない。」とされていた内容は改められ、「相続人又は相続財産清算人に財産を引き渡すまで財産を保存しければならない。」旨が明記されました。

 第645条等、646条、第650条第1項の規定は、委任における受任者の義務について定めた規定です。

遺産分割協議

第904条の3(期間経過後の遺産の分割における相続分)

前三条の規定は、相続開始の時から十年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。

 相続開始の時から十年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。

 相続開始の時から始まる十年の期間の満了前六箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から六箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。

民法

 第904条の3冒頭にある前3条とは、次の規定です。

  • 特別受益者の相続分(第903条、第904条)
  • 寄与分(第904条の2)

 遺産分割協議においては、各相続人の利益が相反することもあり、各相続人の主張により、協議が遅々として進まないこともあり得ます。そのため、新たに、遺産分割協議の時的限界が10年と定められました。

 10年経過以降に行う協議においては、第904条但し書き以降の各号に規定される場合を除き、各相続人は、特別受益や寄与分の規定に基づく具体的相続分の主張ができなくなります。つまり、被相続人から生前に贈与を受けていたことや、被相続人の生活に大きな寄与があったことなどは考慮せず、あくまでも法定相続分に基づいて協議を行うことが原則となりました。

 しかし、これは、現在の実務上も多い話ですが、各相続人が同意するのであれば、10年経過後であっても、生前贈与や寄与分を考慮した具体的相続分に基づき分割協議を行うことは可能です。旧民法規定下においても、具体的相続分があったとしても、裁判手続にならず、相続人間で、被相続人の生前の事情を考慮したうえで、例えば、長男が単独で相続することなどは、よく見られる光景ですが、これは今後も変わりません。

 なお、本規定は、施行日以前に生じていた相続についても適用がありますが、施行日から5年の経過措置も設けられています。つまり、令和5年4月1日から5年を経過する前に発生した相続については、施行日以前又は以降に発生した相続かどうかに関わらず、5年の経過措置の間に遺産分割協議を行うのであれば、各相続人は、具体的相続分を主張することができます。令和5年4月1日から5年経過後は、本規定に基づき、法定相続分での協議が原則となります。

遺産共有と通常共有

 

第258条の2(裁判による共有物の分割)

共有物の全部又はその持分が相続財産に属する場合において、共同相続人間で当該共有物の全部又はその持分について遺産の分割をすべきときは、当該共有物又はその持分について前条の規定による分割をすることができない。

 共有物の持分が相続財産に属する場合において、相続開始の時から十年を経過したときは、前項の規定にかかわらず、相続財産に属する共有物の持分について前条の規定による分割をすることができる。ただし、当該共有物の持分について遺産の分割の請求があった場合において、相続人が当該共有物の持分について同条の規定による分割をすることに異議の申出をしたときは、この限りでない。

 相続人が前項ただし書の申出をする場合には、当該申出は、当該相続人が前条第一項の規定による請求を受けた裁判所から当該請求があった旨の通知を受けた日から二箇月以内に当該裁判所にしなければならない。

民法

 

遺産共有と通常共有の併存例

土地 持分3分の2A、持分3分の1B

Aが死亡し、その相続人は甲乙

甲乙間で遺産分割協議がまとまらない(甲乙は遺産共有状態にある)

甲乙とBとの関係は、通常の共有状態にある

甲は、土地持分を相続したうえで、Bとの共有関係を解消したい

 上記の事例の場合、これまでは、一旦家庭裁判所において、甲乙間で遺産分割審判により、遺産共有状態を解消し、その後、相続財産である持分を取得した甲又は乙がBとの間で共有物分割による手続きを採る必要がありました。

 第2項により、相続開始から10年経過後は、甲は、乙、Aを被告として、共有物分割請求訴訟を提起することができるようになりました。ただし、もし、乙が、甲乙間の遺産共有状態の解消を、共有物分割訴訟において行うことに異議を述べた場合は、この手続を採ることはできず、甲乙間で、遺産共有状態を解消し、その後にBとの間で通常共有状態を解消する必要があります。

所在不明相続人と共有関係解消

第262条の2(所在等不明共有者の持分の取得)

不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)の持分を取得させる旨の裁判をすることができる。この場合において、請求をした共有者が二人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を、請求をした各共有者の持分の割合であん分してそれぞれ取得させる。

 前項の請求があった持分に係る不動産について第二百五十八条第一項の規定による請求又は遺産の分割の請求があり、かつ、所在等不明共有者以外の共有者が前項の請求を受けた裁判所に同項の裁判をすることについて異議がある旨の届出をしたときは、裁判所は、同項の裁判をすることができない。

 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から十年を経過していないときは、裁判所は、第一項の裁判をすることができない。

以下略

民法

第262条の3(所在等不明共有者の持分の譲渡)

不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)以外の共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する旨の裁判をすることができる。

 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から十年を経過していないときは、裁判所は、前項の裁判をすることができない。

以下略

民法

 遺産共有状態(遺産分割未了状態)においては、原則、相続人だけで、共有状態を解消するための協議を行わなわなければなりません。第262条の2及び第262条の3は、そのための遺産分割協議の機会を10年間は保障しつつ、相続人のうち所在不明者がおり、10年を超えなお協議がされない場合は、通常の共有状態と同じとみなし、所在不明相続人の持分の取得、又は第三者への持分の譲渡権限を与える旨の裁判所の許可を得ることができます。