【改正民法】令和5年4月1日施行①【共有関連】

 令和5年4月1日、改正民法が施行されました。相続法などについては、既に施行されておりますが、今般の改正のうち幾つかの条文は相続実務に影響を与えるものとなっています。抜粋にはなりますが、個人的な備忘録を兼ねて投稿します。

共有関係

第251条(共有物の変更)

各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。

 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、当該他の共有者以外の他の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。

民法

 第1項は、ほぼ、これまでどおりの規定です。

 共有物に変更を加える場合には、共有者全員の同意が必要な点は変わりありませんが、括弧書部分が新設されました。著しい変更以外の変更(軽微な変更)は、全員の同意は必要ないことになります。

 第2項は、新設された規定です。

 共有者のうち、所在不明者がおり、共有物に変更を加えることができない場合に、裁判所の決定を得たうえで、所在不明共有者以外の共有者全員の同意により、共有物の変更行為を行うことができます。

 

第252条(共有物の管理)

共有物の管理に関する事項(次条第一項に規定する共有物の管理者の選任及び解任を含み、共有物に前条第一項に規定する変更を加えるものを除く。次項において同じ。)は、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。

 裁判所は、次の各号に掲げるときは、当該各号に規定する他の共有者以外の共有者の請求により、当該他の共有者以外の共有者の持分の価格に従い、その過半数で共有物の管理に関する事項を決することができる旨の裁判をすることができる。

 共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないとき。

 共有者が他の共有者に対し相当の期間を定めて共有物の管理に関する事項を決することについて賛否を明らかにすべき旨を催告した場合において、当該他の共有者がその期間内に賛否を明らかにしないとき。

 前二項の規定による決定が、共有者間の決定に基づいて共有物を使用する共有者に特別の影響を及ぼすべきときは、その承諾を得なければならない。

 共有者は、前三項の規定により、共有物に、次の各号に掲げる賃借権その他の使用及び収益を目的とする権利(以下この項において「賃借権等」という。)であって、当該各号に定める期間を超えないものを設定することができる。

 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃借権等 十年

 前号に掲げる賃借権等以外の土地の賃借権等 五年

 建物の賃借権等 三年

 動産の賃借権等 六箇月

 各共有者は、前各項の規定にかかわらず、保存行為をすることができる。

民法

 第252条については、これまで、同条は、管理行為は共有者の過半数、保存行為は単独でも可能とのみ規定されていましたが、より詳細な規律へと整備されました。

 また、第251条第1項の括弧書(新設)及び第252条第1項の規定により、これまで変更行為は、それが軽微なものであっても、共有者全員の同意が必要とされてきた点を改め、軽微な変更であれば、全員の同意がいらない(過半数でよい)こととなりました。

 さらに、第1項後段において、「共有物を使用する共有者があるときも、同様とする。」と明記されたことにより、例えば、共有者ABCがおり、共有者間の決定に基づきAが単独で共有物を使用していた場合に、過半数の同意(例えばBとC)により、Bに共有物を使用させる旨の決定をすることができます。但し、この場合、実際に共有者間の決定に基づき共有物を使用しているAに特別の影響を与える場合には、Aの承諾が必要となります(第252条第3項)。何が特別の事情に該当するかは、事案毎に応じて判断されますが、仮にAが住居として使用しているような場合には、Aの承諾は必要になるでしょう。

 

 第2項においては、①「所在不明共有者がいる場合」②「他の共有者から相当の期間内に管理行為に対する賛否がない場合」に、裁判所の決定を得た上で、所在不明共有者や賛否を明らかにしない共有者を除く他の共有者の過半数で、管理行為をする旨の決定をすることができるようになりました。こちらも、実際に共有者間の決定に基づき共有物を使用している共有者に特別の影響を与える場合は、その共有者の承諾を得なければなりません。

 

共有物の変更又は管理についての裁判

  • 所在不明共有者がいる場合→管理行為、変更行為ともに裁判所の決定を求めることができる
  • 賛否不明共有者がいる場合→管理行為については、裁判所の決定を求めることができる。変更行為については、利用不可

 さらに、第4項では、短期賃借権についての規律も整備され、各号に定める期間を超えない賃貸借契約等は、共有者の過半数で決定することができるようになりました。

第252条の2(共有物の管理者)

共有物の管理者は、共有物の管理に関する行為をすることができる。ただし、共有者の全員の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。

 共有物の管理者が共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有物の管理者の請求により、当該共有者以外の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。

 共有物の管理者は、共有者が共有物の管理に関する事項を決した場合には、これに従ってその職務を行わなければならない。

 前項の規定に違反して行った共有物の管理者の行為は、共有者に対してその効力を生じない。ただし、共有者は、これをもって善意の第三者に対抗することができない。

民法

 共有物の管理者に関する規定が新設されました。共有物の管理者(共有者の過半数で選任/第252条第1項括弧書)は、単独で管理行為(軽微な変更を含む)をすることができます。但し、軽微でない変更行為は、原則とおり、共有者全員の同意が必要です。

第258条の2(裁判による共有物の分割)

共有物の全部又はその持分が相続財産に属する場合において、共同相続人間で当該共有物の全部又はその持分について遺産の分割をすべきときは、当該共有物又はその持分について前条の規定による分割をすることができない。

 共有物の持分が相続財産に属する場合において、相続開始の時から十年を経過したときは、前項の規定にかかわらず、相続財産に属する共有物の持分について前条の規定による分割をすることができる。ただし、当該共有物の持分について遺産の分割の請求があった場合において、相続人が当該共有物の持分について同条の規定による分割をすることに異議の申出をしたときは、この限りでない。

 相続人が前項ただし書の申出をする場合には、当該申出は、当該相続人が前条第一項の規定による請求を受けた裁判所から当該請求があった旨の通知を受けた日から二箇月以内に当該裁判所にしなければならない。

民法

 前条(第258条)は、共有物を分割する際に、共有者間で協議が整わない場合は、裁判所に対して、分割の請求をすることができる旨の規定です。しかし、共有物が相続財産の場合は、本来、遺産分割をすべきであって、共有物分割をすべきではないものとされてきました。そうした判例法理を原則としつつ、相続財産については、共有物分割請求をすることができない旨が明記されたのと同時に、一方で、相続開始から10年を経過している場合には、第258条規定の共有物分割請求をすることができるものとされました。

所在不明共有者関係

 

第262条の2(所在等不明共有者の持分の取得)

不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)の持分を取得させる旨の裁判をすることができる。この場合において、請求をした共有者が二人以上あるときは、請求をした各共有者に、所在等不明共有者の持分を、請求をした各共有者の持分の割合であん分してそれぞれ取得させる。

 前項の請求があった持分に係る不動産について第二百五十八条第一項の規定による請求又は遺産の分割の請求があり、かつ、所在等不明共有者以外の共有者が前項の請求を受けた裁判所に同項の裁判をすることについて異議がある旨の届出をしたときは、裁判所は、同項の裁判をすることができない。

 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から十年を経過していないときは、裁判所は、第一項の裁判をすることができない。

 第一項の規定により共有者が所在等不明共有者の持分を取得したときは、所在等不明共有者は、当該共有者に対し、当該共有者が取得した持分の時価相当額の支払を請求することができる。

 前各項の規定は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。

民法

 共有者は、裁判所の決定を得たうえで、所在不明共有者の持分を取得することができるようになりました。

 但し、共有財産が、相続財産で、遺産分割協議未了の状態である場合には、相続開始から10年を経過しなければ、この制度を利用して持分を取得することはできません(第262条の2第3項)

 もちろん、この制度を利用して、所在不明共有者の持分を取得した者は、所在不明者に対して、時価相当額の支払いをしなければなりません。この場合、所在不明である共有者に実際に支払うことはできませんので、時価相当額を供託をすることとなります。

第262条の3(所在等不明共有者の持分の譲渡)

不動産が数人の共有に属する場合において、共有者が他の共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有者の請求により、その共有者に、当該他の共有者(以下この条において「所在等不明共有者」という。)以外の共有者の全員が特定の者に対してその有する持分の全部を譲渡することを停止条件として所在等不明共有者の持分を当該特定の者に譲渡する権限を付与する旨の裁判をすることができる。

 所在等不明共有者の持分が相続財産に属する場合(共同相続人間で遺産の分割をすべき場合に限る。)において、相続開始の時から十年を経過していないときは、裁判所は、前項の裁判をすることができない。

 第一項の裁判により付与された権限に基づき共有者が所在等不明共有者の持分を第三者に譲渡したときは、所在等不明共有者は、当該譲渡をした共有者に対し、不動産の時価相当額を所在等不明共有者の持分に応じて按分して得た額の支払を請求することができる。

 前三項の規定は、不動産の使用又は収益をする権利(所有権を除く。)が数人の共有に属する場合について準用する。

民法

 所在不明共有者がいる場合、特定の共有者は、その所在不明共有者の持分を、第三者に譲渡する権限を得る裁判所の決定を求めることができるようになりました。あくまでも、譲渡する権限を得られるだけであり、特定の共有者が取得する前条の制度とは異なるものです。

 その際、特定の共有者以外の他の共有者がいる場合には、他の共有者も一緒に第三者に対して持分を譲渡することが条件となります。つまり、共有物全体を一緒に第三者に譲渡することなります。

  

共有者A、B、C(所在不明)

土地をABCで共有しており、Cが所在不明な場合

Aは、前条の制度を利用して、Cの持分を取得し、その後に、Bと一緒に第三者に対して、土地を売却することは可能だが、手続としては迂遠すぎるため、本制度を利用すれば、直接第三者に土地を売却できる。

 当然、持分の取得制度と同様に、所在不明共有者は、時価相当額の支払いを請求できることとなります。請求の相手方は、譲渡された第三者ではなく、譲渡した共有者であり、当該共有者は、所在不明共有者の持分に応じて按分した時価相当額を供託しなければなりません。

 こちらの制度も、相続開始から10年を経過していない場合は、利用することができません。