【浜松市】免責的債務引受による債務者変更登記(改正民法対応)【不動産登記】
抵当権の債務者が死亡すると、担保されていた債務は、分割債務として、各相続人に法定相続分の割合で承継されることとなります。したがって、本来、各相続人がそれぞれ弁済義務を負うこととなりますが、金融機関が取り扱う住宅ローンにおいては、実務上、特定の相続人1名が債務を引き継ぐことが多くあります。
といっても、最近では、団体信用生命保険により、債務者が死亡すると債務が弁済され、抵当権を抹消することも多くなっているため、以前に比べると、そうした手続の頻度は少なくなっています。
従来(民法改正前)の債務者変更登記
令和2年の民法の債権法改正前まで、相続による抵当権の債務者変更登記は、司法書士にとってはお馴染みの申請で、以下のような2連件の申請でした。
相続による抵当権の債務者変更(債務者甲死亡、相続人ABCD)
- 抵当権変更登記(登記原因:相続) 債務者ABCD
- 抵当権変更登記(登記原因:ABCの債務引受)債務者D
この登記は、債務者甲が死亡し、一旦、各相続人が分割債務をそれぞれ承継したこと、その後、相続人全員と金融機関との間で、免責的債務引受契約を締結し(厳密にいえば、登記上は全員と契約したかは不明ですが)、そのうち特定の相続人1名が債務を全て承継したことを公示するものです。
金融機関との間で免責的債務引受契約を締結せずとも、遺産分割協議で、債務を引き受ける相続人を定め、債権者である金融機関がその旨を承諾すれば、特定の相続人1名に債務を承継させることもできます。その場合、抵当権変更登記は、上記の様な2連件ではなく1回で済むのですが、実務上、免責的債務引受契約を締結することが慣例となっています。
ところで、債権法改正までは、免責的債務引受に関する条文は存在せず、抵当権変更登記の実務は、判例法理に従って行われていた手続となります。
登記原因証明情報として必要な要件は、上記1については①債務者死亡の事実②債務者の相続人はABCDであることの2点、上記2については①債務者ABCDと金融機関の間で特定の相続人1名が債務を引き継ぐ内容の免責的債務引受契約を締結したことの1点でした。
改正前は、条文上記載がないために、もともと条文化されていた第三者弁済などに当てはめた解釈も行われていましたが、改正により、これまで判例法理に従って金融市場で一般的に行われてきたこの免責的債務引受に関する手続を、条文に反映させることとなりました。
民法改正後の債務者変更登記
新設された条文
あらたに新設された条文は以下のとおりです。
免責的債務引受
(免責的債務引受の要件及び効果)
第四百七十二条 免責的債務引受の引受人は債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担し、債務者は自己の債務を免れる。
2 免責的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。この場合において、免責的債務引受は、債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知した時に、その効力を生ずる。
3 免責的債務引受は、債務者と引受人となる者が契約をし、債権者が引受人となる者に対して承諾をすることによってもすることができる。
(免責的債務引受による担保の移転)
第四百七十二条の四 債権者は、第四百七十二条第一項の規定により債務者が免れる債務の担保として設定された担保権を引受人が負担する債務に移すことができる。ただし、引受人以外の者がこれを設定した場合には、その承諾を得なければならない。
2 前項の規定による担保権の移転は、あらかじめ又は同時に引受人に対してする意思表示によってしなければならない。
3 省略
4 省略
5 省略
第472条は、これまでの解釈を条文化した内容となっています。
免責的債務引受の当事者
- 三面契約
- 債権者と引受人との契約(要債務者への通知)
- 債務者と引受人との契約(要債権者の承諾)
上記の内容は、判例理論を踏襲した上で、債権者と引受人との契約の場合は「債務者への通知」、債務者と引受人との契約の場合は「債権者の承諾」を必要とする旨を明文化することで、債務者又は債権者の利益を保護した内容としています。
これら「債務者への通知」又は「債権者の承諾」は、免責的債務引受の効力要件ですので、登記申請に添付する登記原因証明情報には、当然にその旨を記載しなければなりませんし、原因日にも影響します。
第472条の4の規定は、一見、意味が非常に分かりにくい内容となっています。従来、抵当権の債務者が死亡した場合、あまりにも慣例化した申請であったため、私もそうでしたが、多くの司法書士が、「相続を原因とした抵当権変更登記、債務引受を原因とした抵当権変更登記の2連件を行う。」と、深く検討することなく判断していたでしょうから、「変更ではなく、移転」と言われると、戸惑うことでしょう。
登記研究第873号9頁によると、「後順位の担保権が設定されている場合に、債務者が免れる債務の担保として設定された従前の順位を維持するためには、改めて担保権を設定するのではなく、従前の担保権を移転するという構成をとる必要がある。」とされています。確かに、免責的債務引受契約により、債務は移転するのに、一方でそれを担保している抵当権についても移転する旨の条文記載がないと、整合性が取れませんので、免責債務引受を明文化したことで、これまで判例理論で当然に行われてきた曖昧さを回避するうえでも、必要な法的構成として記載されたと思われます。
この担保権移転の意思表示は、免責的債務引受契約と同時又は先立って行う必要があります。
また、設定者が引受人以外の場合には、その設定者の承諾が必要なことも明記されました。
免責的債務引受による登記
登記の目的
登記の目的は、第472条の4で、「担保権を移転することができる。」と記載されていますが、移転登記ではなく、従来とおり「抵当権変更」登記により行います。
登記原因証明情報
改正に伴い、登記原因証明情報の記載内容も変更する必要があります。要件は、各契約類型に応じて、以下のとおりですが、実務上は、金融機関は慣例と異なる手続を嫌いますので、ほとんどは、(1)の三面契約により行われ、(2)や(3)は少ないと思われます。
私もこれまで何度か債務引受による抵当権変更登記を申請してきましたが、金融機関所定の抵当権変更契約証書を、登記原因証明情報としてそのまま使用することはなく、別に登記原因証明情報を作成していました。その理由として、金融機関の書類は登記に必要な要件を満たさない場合もあったからですが(当事者の表記が不十分など)、民法改正後の現状、以下の要件を明確に記載している金融機関の書類はおそらくないため、これまで以上に報告形式の登記原因証明情報を作成する必要性は増しているかももしれません。
(1)三面契約(債権者、引受人、債務者)による場合
①三者間で免責的債務引受契約を締結したこと
②債権者が、あらかじめ又は同時に(第472条の4第2項)、引受人に対して担保権の移転をする旨の意思表示をしたこと
③引受人以外の設定者の承諾を得たこと(第472条の4第1項後段)
(2)債権者と引受人との契約による場合
①債権者と引受人との間で免責的債務引受契約が成立したこと
②債権者が債務者に対し、免責的債務引受契約ををした旨を通知したこと
③債権者が、あらかじめ又は同時に、引受人に対して担保権の移転をする旨の意思表示をしたこと
④引受人以外の設定者の承諾を得たこと
(3)債務者と引受人との契約による場合
①債務者と引受人との間で免責的債務引受契約が成立したこと
②債権者が引受人に対して免責的債務引受契約を承諾したこと
③債権者が、あらかじめ又は同時に、引受人に対して担保権の移転をする旨の意思表示をしたこと
④引受人以外の設定者の承諾を得たこと
具体例(複雑な事例)
次の事例は、実際に行った申請です。登記原因日(効力発生日)、登記原因証明情報の記載内容など、かなり検討を要しました。
色々な事情があり、債務者のうち2名が金融機関との間の免責的債務引受契約を締結できなかった事例となります。上記の例でいうと(2)の「債権者と引受人との間の契約」に該当します。
事例(債務者甲死亡、相続人ABCD、設定者CD)
最終的にD1名を債務者とする。
ABが諸事情により、金融機関との間で免責的債務引受契約を締結できない。
よって、金融機関とCD間で、Dが債務を引き受ける旨の免責的債務引受契約を締結した(1月1日)
金融機関はAに対し、内容証明郵便にて、その旨を通知した(1月7日)
金融機関はBに対し、内容証明郵便にて、その旨を通知した(1月8日)
上記事例において、登記原因日は、効力要件である債務者への通知日となります(1月8日)。
当初、相続による債務の承継は、分割債務であるため、Aに対しての通知日と、Bに対しての通知日が異なる場合、それぞれ別の債務移転であるために、抵当権の変更(移転)も、別申請となるとも考えられないだろうかと、相当迷いました。
しかし、1個の抵当権につき、抵当権変更登記を債務者毎に個別に申請するというのも、あまりにも迂遠ですし、第472条2項の条文は、通知日が免責的債務引受契約全体の効力発生日となるとも解釈できるため、遅い方の通知日を効力発生日として、最終的に法務局にも照会したうえで、1/8を原因日とした通常の免責的債務引受契約に基づく登記と同様の登記申請をいたしました。
以下は、その際の登記原因証明情報の記載内容です(参考は、ご自身のご判断で行ってください。複雑な事例の場合は、都度法務局にご相談ください。)


