相続手続と判断能力

相続と成年後見制度

 相続手続に際しては、遺言書の有るなしに関わらず、手続者つまり各相続人の判断能力が必要となります。例えば、相続人間で行う遺産分割協議書の作成はもちろん、金融機関等の各手続においても、判断能力が必要です。

 しかし、最近、相続人の一人が高齢等の理由により判断能力が欠けており、手続を進められないといった事案が多く見られるようになってきました。「将来のそうした事象を見越して、被相続人の生前に遺言書など作成しておけばよかった。」と仰る方もおられますが、なかなか、将来まで考えて遺言書を書くというのも、被相続人のご意思もあることから、一朝一夕にはいかないものです。

 現在のところ、相続発生時に、認知症等により判断能力が欠けている方がいる場合に相続手続を進めるには、判断能力が欠けた方に代わり手続を行う成年後見人等を家庭裁判所に選任してもらうしかありません。

 

成年後見人制度とは

 成年後見人制度は、家庭裁判所により行われる手続であり、判断能力や意思能力に欠けた方に代わり、財産の管理や法律行為を行う者を選任する制度です。

 相続手続においては、遺産分割協議、相続登記、金融機関等の各手続が発生しますが、その全てにおいて、手続者の判断能力が必要です。したがって、判断力に欠けた方がいる場合には、この制度を用いるしかありません。

 

手続期間はどのくらい?

 手続期間は、各家庭裁判所(管轄は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所)の事務次第ですが、通常1か月半~2か月程度となります。つまり、成年後見人選任の申立てをしてから、2か月後にやっと選任されるわけですが、選任直後は諸々の事務も発生するために、実際に相続手続ができるのは、早くても申立から3か月後位からが目安となります。それまでは、当然に相続手続を進められませんので、金融機関等の預貯金を引き出すこともできません。

成年後見人になれるのは?

 成年後見人には、①司法書士等の資格を持った専門職が就く場合と②判断能力がない本人の親族が就く場合があります。相続手続のために成年後見人を選任する場合、通常、専門職が成年後見人に就任することが多いと思われます。

 親族が成年後見人に就任すると、その親族も相続人であることが多く、成年後見人である親族と判断能力がない本人との利害対立し、いわゆる利益相反となってしまうことが理由の一つです。

 また、本人が遺産を取得した場合に、本人の財産が多額となることも多く、その場合、家庭裁判所が親族後見人を許可しない可能性が高いこともその理由です。

成年後見人制度の注意点

 相続の際に成年後見人制度を利用する際の注意点がいくつかあります。

①親族後見人が認められない傾向がある

 成年後見人に司法書士等の専門職が就任すると、報酬が発生します。この報酬は、本人の財産から支払われます。報酬の支払いは申告制で、年に1回、家庭裁判所に報酬付与の申告を行うこととなります。言い換えれば、報酬付与の申告をしなければ報酬は支払われませんので、親族が成年後見人となり報酬の請求をしなけければ報酬は発生せずに、本人の財産が減ることもありません。

 また、家庭に部外者たる専門職の後見人が入ることも、家族の方からすると気にかかる点かもしれませんので、やはり各家庭にとって最もよいのは、親族が成年後見人となることです。

 しかし、先に述べたように、親族も相続人であった場合に利益相反が発生すること、遺産取得により本人の財産が多額となった場合、その管理を親族ではできないと家庭裁判所が判断することも多く、親族が後見人となるのは簡単ではありません。

②相続手続完了後も成年後見人は辞められない

 成年後見人は、本人の財産を管理することが仕事であり、相続手続が完了したからといって、成年後見制度をやめることはできません。原則、本人が亡くなるまで成年後見人がサポートしていくこととなります。

 つまり、一度成年後見人制度を利用すると、相続手続だけの話ではなく、その後の本人の生活も成年後見人が管理していくこととなります。

③本人は法定相続分以上の遺産を取得しなければならない

 相続人間の遺産分割協議では、相続人の合意に基づいて、各人の取得分を決めることができます。極端な話、合意により相続人のうち1名のみが全財産を取得することも可能です。しかし、成年後見人制度を用いた場合には、成年後見人は本人の利益を守るための代理人であるために、必ず法定相続分以上の遺産を本人が取得しなければなりません。

 

 

できるだけご家族に負担をかけないようにするために

 前述のとおり、相続の際の成年後見人は、司法書士などの資格をもった専門職の後見人となることが通常です。その場合、司法書士に支払う報酬が発生するため、当事務所では、以下の流れで手続をこれまで行っています。

被相続人の死亡~成年後見人等選任申立

ご相談を頂いてからできるだけ最短(数週間~1か月弱)で申立を行います。申立から2か月後位を目途に審判が下されますので、ご相談時から3ケ月弱程度の期間となります。

成年後見人の選任

成年後見人には、私と親族の方の2名が就任します(誰が成年後見人となるかは家庭裁判所の裁量次第ですが、申立時に私と親族の2名を候補者として記載することで、ほぼそのとおりに選任されます。)

私は、全ての事務が完了次第速やかに辞任しますが、これは、専門職の成年後見人に支払う報酬額を低減するためです。

遺産分割協議書の締結及び後見制度支援預金契約の締結

私が本人の成年後見人として他の相続人と一緒に遺産分割協議書を締結します。本人は必ず法定相続分以上の遺産を取得しなければなりません。

相続手続の完了後、本人の財産額が多額となった場合(概ね現預金で1千万円が基準)、預貯金口座を①小口口座(200万~300万円/普段使える口座)と②大口口座(後見制度支援預金口座/引き出すには裁判所の許可が必要)に分ける手続を行います。この小口口座と大口口座に分ける手続を「後見制度支援預金口座締結」手続といいます。

専門職成年後見人の辞任

私は、相続手続及び後見制度支援預金口座開設手続完了後に辞任します。就任から辞任までの私への報酬は発生しますが、短期間で辞任するために、相続手続以降も専門職後見人が選任されたままの状況に比べると、本人の財産を守ることにもつながります。

私が辞任後は、親族の後見人のみで事務を行います。本人のために必要な支出は小口口座から行うこととなります。大口口座は裁判所の許可がないと使用できません。

 

まとめ

 成年後見人制度は、判断能力が十分ではない方のための制度です。司法書士等の専門職の後見人も多く見られます。しかし、ご家族にとって最もよいのは、部外者である第三者が家庭に入るより、家族間で協力し合うことです。

 したがって、親族だけで事務を遂行することがとても困難な事情がある場合や親族が本人の財産を費消してしまう恐れがある場合などを除き、可能な限り専門職後見人よりも親族後見人が就任すべきと私は考えています。

 当事務所では、相続手続に際し、上記のような2名体制で成年後見人に就任し、手続完了後に専門職後見人である私が辞任する流れでお手伝いしています。もちろん、何らかの理由で相続等の手続後も専門職後見人に任せたい希望があればお受けしますが、成年後見人の事務は、本人の財産をしっかり守ることさえ念頭においていれば、それほど難しくありませんので、ご親族でも十分やっていけるでしょう。

事務所名 くわはら司法書士事務所/くわはら不動産
英文事務所名 Kuwahara Shiho-shoshi lawyer Office/Kuwahara real estate
代表者桒原徹(桑原徹)
所在地 〒430-0911 静岡県浜松市中央区新津町245番地の1
TEL 053-460-8256
宅地建物取引業免許証番号静岡県知事(1)第14911号
営業時間平日9時~17時(土日祝時間外も対応可能です)
業務内容 ・不動産仲介
・相続手続全般
・不動産登記
・商業登記
・債権動産譲渡登記
・成年後見