【浜松市】判決等による登記【よくある事例】

 登記は、相続登記のように不動産を取得する側が単独で申請できる手続もありますが、本来は、共同申請といって、権利を得る側と、義務を提供する側の2者間で手続するのが基本です。

 したがって、登記申請を行うためには、双方の協力が不可欠となります。言い換えれば、お互いの登記をするという意思が必要となるわけです。

 この例外が、判決等による登記で、裁判上の判決、和解等によって権利を得る側が単独で登記申請手続を行える場合があります。

 例えば、和解調書により、「Aは、Bに対し、所有権移転登記申請手続をする。」との記載があれば、Bは単独で自己名義に変更する登記を申請することができます。これは、裁判上の和解の中で、Aの所有権移転登記をするという意思が擬制されているとみなすことができるためです。

 しかし、判決等の中には登記申請意思が擬制されていると判断できない記載もあり、この場合は、原則とおり、共同で申請する必要が生じます。この意思擬制の論点は、他の司法書士のホームページ等でも詳しく説明されており、注意すべき事例として有名ですが、ここでは、実務上、かなりの頻度で発生する他の事例を紹介します。

 当事者の表示(特に住所)は注意

 判決であれ和解であれ、冒頭部に、当事者の表示が記載されています。

 住所等及び氏名が表示されていますが、このうち、氏名はともかく、住所等の記載により問題が生じる場合は、実は少なくありません。

 住所は登記上の本人特定のための重要な要素

 登記記録の甲区(所有権)には、氏名と住所(住民票上の住所であり、居所ではない)が、必ず記載されます。この住所と氏名は、本人を特定するための重要な要素となっています。したがって、いくら名前が一緒であっても、あるいは、権利証があっても、仮に登記記録上の住所と現在の住所が異なる場合には、そのままでは、登記手続ができず、必ず住所の変更又は更正を行う必要があります。これは、判決等による単独での申請であろうが、通常の共同申請であろうが、登記の基本原則となっています。

 判決等の当事者の住所と登記記録の住所が異なる場合

①引っ越しなどで住所を移転した場合

 例えば、登記記録上の住所がA、判決等の住所がBの場合を考えてみます。住所Bに最近住民票を移したとしましょう。

 この場合、所有権移転登記等の前提登記として、A→Bへの住所変更登記を申請する必要があります。これは、住所の誤記でもなんでもなく、単純に、住所を変更した場合の話です。

②判決等の住所に誤記があった場合

 実際にあった事例ですが、登記記録上の住所が「〇〇町1番1号」であり、現在もそこに住民票があるとします。一方で、判決の中の表示は、「〇〇町1番地の1」となっています。一見すると双方とも省略表記すれば「1-1」で変わらないように見えますが、住居表示実施による住所と地番表記による住所は、概念として異なるため、同一性があるとは見なされません。よって、この場合、判決中の住所表示を更正する更正決定が必要となります。

 更正決定は、難しい手続ではなく、決定も短期間でされることが通常です。ただし、即時抗告できるため、確定までは時間がかかります(即時抗告権を放棄することで短縮も可能です。)

 なお、判決の中の当事者の表示が明らかな誤記の場合は、更正決定をせずに、裁判官が職権で更正してくれる場合もあります。

③判決等の住所が居所の場合

 判決等の当事者の表示が居所(住民票上の住所ではなく、今住んでいる場所のこと)の場合もあります。この場合も更正決定が必要となります。なぜなら、登記上の住所は、住民票等の公的書類に基づいた住所であり、判決記載の居所では、当事者の同一性が判断できないためです。

  当事者の表示は居所でも構いませんが、その後の登記手続があるのであれば、住民票上の住所も併記する必要があります。

 司法書士が、判決等による登記をするうえで、最も気に掛けるのが、当事者の住所かもしれません。長い裁判等の途中で、当事者の住所が変わることも多く、登記記録上の住所と一致しないことはよくあるからです。

 単純に、上記①のように住民票を移動しているだけであれば、住所変更登記をすれば済みますが、誤記や居所表示の場合は、更正決定を得る必要もあり、手続に時間がかかってしまいます。

 簡裁代理や書類作成などを多くされている方は皆さん同じ感覚を持っているかもしれませんが、相続放棄、成年後見申立などの裁判所関係書類を作成すると、裁判所の書類は、カチッとしている法務局と異なり、ファジーな面があると感じることがよくあります。

 おそらく、これは、法務局が登記という記録上で人の権利義務を公示するため、氏名や住所などの表記に気を遣うのに対し、裁判所では、むしろ、書類上のそうした細かい住所等よりも、権利義務を判断する根本部分に重きを置いているからなのでしょう。

 以前、ある弁護士が、「同じような住所の誤記があり、法務局にそのまま登記して欲しい旨を要望したが、ダメだった。法務局は細かい・・・。」と言っていましたが、法務局と裁判所ではそれぞれの職責が異なり、重視する面が異なるため、こうした問題が発生しがちなのかもしれません。

参考

登記研究611号171ページ

「住所変更登記省略の可否/質疑応答7671」

 要旨 判決による所有権移転の登記を申請する場合において、申請書に添付された判決正本に登記義務者である被告の住所として、登記簿上の住所と現住所が併記されているときであっても、その前提として登記名義人表示変更(更正)の登記を省略することはできない。

 登記研究427号質疑応答6263は、上記に回答変更されました。