【司法書士】上場株式の相続手続【浜松市】
最近は、多くの方が株取引を行っています。野村証券、SMBC日興証券などはもちろん、ネット系の証券会社の口座を持っている方もおられます。昔に比べると、非常に簡便になっている株取引ですが、こと相続手続に限っていうと、不動産、預貯金などの手続に比べ、手間がかかる場合があります。
当事務所でも、これまで証券会社の相続手続を受託してまいりましたが、登記手続をつかさどる法務局、金融機関の手続はスムーズに進むのに対し、証券会社の相続手続は時間がかかるのはもちろん、相続税などが発生する場合は、さらに評価の確認なども大変という印象を持っています。
したがって、個人的には、いわゆる終活をされるのであれば、事前に証券会社の口座は全て解約しておくことをお勧めしています。残された相続人の手続きが、はるかに簡便になります。といっても、簡単に解約することが難しい場合もあるでしょう。その場合には、取引証券会社を一社に集約しておくことも有効です。
証券会社等の手続が大変な理由
相続手続は、実はどの手続先であってもやることは一緒です。戸籍謄本等又は法定相続情報一覧図、印鑑証明書、遺産分割協議書又は遺言書を提出し、各手続先所定の相続手続書類に記入していくこととなります。
証券会社の相続手続も同じですが、証券会社の窓口は地元にないことが多く、いわゆるフリーダイヤルに電話をすることから始めなければなりません。予想がつくとは思いますが、最近は全て自動音声で、手続内容によりプッシュボタンを押すところから始まり、オペレーターになかなか繋がらないなど時間を要します。
証券会社と信託銀行の違い
個人が信託銀行の特別口座内で株式を保有していた場合は、さらに手続が複雑になります。通常、株式等は、証券会社を通して売買をし、証券会社の特定口座内で管理されています。証券会社内の株式であれば、証券会社に対して手続するだけで済みます。その証券会社の全ての株式銘柄を把握していない場合であっても、特定の証券会社と取引があったことが分かれば、そこに対し、先のフリーダイヤルに電話をして、相続書類の郵送を依頼し、全ての株式を一括した相続手続が可能です。
しかし、信託銀行内の特別口座の場合は、少し勝手が異なります。信託銀行の特別口座は、株式の取引口座ではなく管理しているだけですから、信託銀行に対し相続手続を要求する場合には、証券会社のように全銘柄を一括して手続することはできず、必ずその特別口座にある個別銘柄を相続人側で特定し、その銘柄毎に手続を行わなければなりません。例えば、トヨタ自動車の株式と日産自動車の株式があった場合、まずその旨を信託銀行に伝え、それぞれ別に相続手続をする必要が生じます。
証券会社と信託銀行の違い
①証券会社ー全ての株式を一括して手続できる(全ての株式を把握していなくても問題ない)
②信託銀行ー個別銘柄毎に手続する必要がある(個別銘柄を把握している必要がある)
信託銀行の手続の具体例
具体例を挙げます。
例えば、野村証券からの取引明細等でトヨタ株とマツダ株の2つの銘柄のみが野村証券内に有ることが判明したとします。それとは別に、三井住友信託銀行からスズキ株に関する封書もあったとします。この時点で分かることは、スズキ、マツダ、トヨタの株を被相続人が保有していたこと、トヨタ、マツダは野村証券にあるが、スズキは不明という事実です(大抵は、後述する信託銀行の特別口座内にあることが多いです。)
三井住友信託銀行からの封書とは、スズキの株主名簿管理人としての立場に基づく株主総会通知書であったり、配当金に関する通知であり、その通知からはスズキの株がどこにあるのかは分かりません。もしかすると三井住友信託銀行の特別口座にあるかもしれませんし、野村証券以外の他の証券会社口座にあるかもしれません。
こうした場合には、まず三井住友信託銀行のフリーダイヤルに電話をします。そこでオペレーターに対し、スズキの株が特別口座にあるかを確認します。本来、信託銀行の手続では、相続人側で個別銘柄を特定し、その銘柄を信託銀行に伝える必要がありますが、もしスズキの株が三井住友信託銀行内にあれば、その旨は電話で教えてくれます。
しかし、他の銘柄があるかどうかを確認することは電話ではできません。私の経験上、オペレーターは被相続人の名前等で銘柄を検索することはできず、あくまでもこちら側で銘柄を指定する必要があります。もし、スズキの株が特別口座にあった場合、選べる選択肢は2つです。
一つは、スズキの株式のみの相続手続を行うこと、そしてもう一つは、三井住友信託銀行内に他の株があるかを調べることです。
ある特定の株が信託銀行口座にあった場合、他の株もそこの信託銀行内にあることも考えられます。この辺りの判断は、信託銀行からの被相続人宛ての封書などで行うしかありませんが、被相続人が多くの株取引を行っており、そうした封書も膨大にあり、判断に迷うような場合であれば、念のため調査した方がよいと思います。
また、もしスズキの株が三井住友信託銀行内になかった場合も、当然に、どこの証券会社にあるのかを調査しなければなりません。
株式の調査方法
取引証券会社が分かっているのであれば、そもそも調査せずに相続手続が可能ですが、相続人間で相続財産を把握し、遺産分割協議を行うことを鑑みると、事前に残高証明は取得しておく方がよいでしょう。残高証明には、被相続人がその証券会社で有している株式等が全て記載されているのはもちろん、相続評価額の記載もありますので、流動的な評価である株式等を遺産分割するうえで、一定の指針となります。
信託銀行の場合は、先に述べたように個別銘柄毎の手続になりますので、もし他にも株がある可能性があるのであれば、調査依頼をかけることができます。但し、信託銀行の調査には1か月程度の時間を要します。
調査結果は、封書で送られてきます。以下の画像のような書類です。信託銀行によってフォームは異なります。
左(スマホでは上)の画像と右の画像(スマホでは下)は一見同じように見えますが、異なる書類です。
左の書類には括弧書で(特別口座)と記してあります。これは、その信託銀行内の特別口座に、その株があるということを意味しています。したがって、その信託銀行に対して相続手続を行います。
もし、特別口座の記載のない右の書類だけが送られてきた場合には、その信託銀行内には、その株はなく、いずれかの証券会社内にあることを意味します。
証券保管振替機構に対する調査
証券保管振替機構という団体があります。いわゆる「ほふり」と呼ばれる組織です。
証券保管振替機構では、被相続人の株式口座がどこにあるかを調査することができます。個別具体的な銘柄を調査することはできませんが、証券会社の特定口座、信託銀行の特別口座を確認することができます。
したがって、先のスズキの株を管理している証券会社を確認したいのであれば、ほふりを利用することが有用です。
また、被相続人が多くの銘柄を保有しており、相続人が把握している株式以外にも他にある可能性がある場合なども、このほふりを利用して調査することをお勧めします。
ほふりの調査機関は、1ヶ月~1か月半程度です。費用が6050円ほどかかります。(令和7年5月現在)
ほふりからの調査結果は、以下のような内容です。見ていただくと分かるように、取引口座は記載されますが、銘柄は記載されません。つまり、ほふりからの調査結果だけでは完結せず、次に記載の各口座取引先に残高照会等をかけることが必要となります。
上場株式の相続評価について
上場株式の評価は、死亡日の終値、死亡日が属する月の終値平均、前月の終値平均、前々月の終値平均のうち、最も安い値を相続税を計算する際の評価とすることができます。
証券会社に対し、残高証明の請求をすると、相続評価も提示してくれます。
一方、信託銀行の場合ですが、手数料を徴収し株式の売買を媒介している証券会社とは異なり、あくまで株式を管理しているに過ぎないことから、そのようなサービスはありません。したがって、相続人側で必要に応じて、相続評価を試算する必要があります。
死亡日の終値等は、ヤフー、株探などのサイトで確認することができます。また、月平均の終値は、日本取引所(JPX)のサイトで確認することができます。株式銘柄が多い場合は、このあたりの作業も大変かもしれません。