未登記建物と相続登記義務化

未登記建物

相続と未登記建物

 相続手続きの業務をしていると、意外と多くの未登記建物が存在することを知ります。浜松市、磐田市は旧家も多いことから、感覚的なところでいうと、相続手続5件に1件程度は、未登記建物があるような印象をうけます。

 未登記建物とは、以下のブログでもご説明しましたが、一般に2つの状態を指します。

  参考ブログ「未登記建物と建替え」

未登記建物とは

  • 表題部だけある場合(権利部だけ未登記)
  • 表題部もない場合(そもそも記録自体がない)

 不動産の登記記録は、2つのブロックで構成されています。表題部というのは、建物の面積や構造といった建物自体についての情報が記録されているブロックです。権利部は、その建物を対象とする権利、所有権や抵当権などについて記録するブロックです。

 登記記録は、まず表題部が作成され、その次に権利部が作成されます。したがって、表題部がないということは、登記の記録自体がないこととなります。

 実務においては、表題部もない建物、つまり登記記録自体がない建物が非常に多く見られます。稀に、表題部はあるが権利部だけ未登記の建物も存在しますが、数でいうと記録自体がない建物の方が多いように感じます。

 もし、表題部はあるが権利部が未登記であれば、他に相続したであろう土地などと一緒に、司法書士だけで相続登記手続きを完了することができます。

 一方、表題部もない未登記建物の場合は、まず、表題部を作成しなければならず、この手続きをするのは、司法書士ではなく、土地家屋調査士となります。表題部には、未登記建物の構造や床面積などが記録されることとなりますが、土地家屋調査士は、こうした構造や面積を確認するために、実際に未登記建物を現地で調査しなければなりません。概して、こうした未登記建物は古く、建築確認済証などの書類や図面なども紛失しているため、一からの測量等が必要となり、図面等が揃っている新築建物に比べて、多くの時間や労力が必要となります。

 その結果、表題部を作成する作業(この作業を「表題登記」といいます)は、一般に、10万円以上~の費用が必要となるため、金銭面での相続人の負担は軽いものではありません。また、これら未登記建物は、築年数も相当年経っていることから、近い将来に解体する可能性もあり、現状支障がない以上、依頼者の中には、あえて未登記状態を解消する必要性はあまりないと感じてしまう方もいます。

 しかし、実は、不動産登記法において、建物を取得した者は表題登記をしなければならない旨が定められています。

 

不動産登記法第47条第1項

 新築した建物又は区分建物以外の表題登記がない建物の所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から1月以内に、表題登記を申請しなければならない。

引用元 不動産登記法

 

 したがって、本来であれば、こうした未登記建物を取得した相続人は、1か月以内に表題登記を申請する義務があります。これを怠った場合には、過料罰も規定されています。ところが、実務上、古い未登記建物を相続で取得し、その登記を行わなかった人に対して、過料が課されたという話は、聞いたことがありません。おそらく、こうした古い家屋は日本全国に無数にあり、これを全て過料に処することは、過料の対象となる相続人を特定しなければならないなど、実務上も困難が伴うことなどが理由でしょう。

  そのため、尚更、相続で未登記建物を取得しても、登記することなく済ましてしまう方が多くなる現状があります。

相続登記義務化後に、未登記建物はどうなる?

 以下のブログで相続登記が義務化になる旨を投稿しました。

  参考ブログ「【浜松市】相続登記の義務化Q&A【司法書士】」

 令和6年から不動産(土地・建物)の相続登記の義務化が開始され、違反した場合は、10万以下の過料が課されます。高齢化社会に突入した日本において、所有者が不明である土地の増加が社会問題化しつつあり、相続登記が放置されると、ますます所有者の特定が難しくなることから、この制度が開始されることとなりました。

 この制度は、前項の表題登記がない未登記建物は直接の対象とはしていません。あくまでも、権利部の登記の義務化です。そのため、仮に未登記の建物を相続した場合に、未登記状態を解消しなくとも、この義務化に対し、直接的には抵触することはありません。

 しかし、前項で説明したとおり、不動産登記法上で、1か月以内に表題登記をすることが義務付けられている以上、いわゆる令和6年以降の相続登記の義務化制度に抵触することはなくとも、元々存在している法律に抵触していることに変わりはありません。

 この相続登記の義務化にあたり、おそらく、こうした表題登記がない未登記建物の存在も議論されたと思われますが、あえて直接の対象としていないのは、そもそも、既に不動産登記法上で未登記建物の表題登記が既に義務化されているからでしょう。

 現状、未登記建物を相続しても、費用的な観点からも、表題登記を申請することなく、そのまま済ましている方が多くいますが、令和6年以降の相続登記義務化開始により、もしかすると、これら未登記建物についても、現実に過料が課されるようになるかもしれません。

 本来、この相続登記義務化制度は、所有者が不明な「土地」を減少させることを目的とするものですが、義務化対象は、「土地」だけではなく「建物」を含む「不動産」となっています。これは、あくまでも当初の目的対象が土地であっても、土地と一体化して存在している建物の登記を義務化しなければ、制度として本末転倒となるのは明らかだからです。

 同様に、日本全国にある多くの未登記建物についても、それを放置することを許容し続ければ、相続登記義務化により所有者不明土地を減少させようとする取り組みに支障をきたす場合もあるかもしれません。

 これまで、実務上は許容されてきた未登記建物について、いきなり過料が課されることになるかどうかは分かりませんが、少なくとも、国の施策として、不動産の所有者情報を明確にしようとする取組みがある以上、いずれは、こうした未登記建物についても、厳格な運用がされるかもしれません。

 いずれにしろ、今後、どうなるかは分かりませんが、相続登記の義務化などの新しい制度が今後も導入されていく可能性もあり、司法書士としても注視し、しっかりと依頼者の方に説明をしなければならないと考えています。