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マイホームと預貯金を相続した事例

谷口様(仮名)60歳
 谷口様は、ご主人がお亡くなりになり、当事務所に相談に来られました。相続人は、谷口様ご本人と息子さん1名及び娘さん1名でした。お話を伺ったところ、今住んでいるご自宅と金融機関にある預貯金が相続財産ということでした。息子さんと娘さんとの間でほぼ協議は済んでいるとのことでした。

 よくある事例として、ご本人が把握されていない不動産が存在している場合があるため、当事務所で名寄せ帳等を取り寄せ、漏れている不動産がないことを確認したうえで、遺産分割協議書を作成し、不動産の名義変更手続(登記)を致しました。

 金融機関の相続手続は、当事務所で請け負うこともできますが、谷口様はご本人でするとのお話でしたので、預金解約等の手続きについてもご説明致しました。
 ご相談から、1週間程度で登記まで申請することができましたが、迅速な対応に喜んで頂けました。

20年以上前に遺産分割協議をしたが、相続登記をしていなかった事例/相続人に海外居住者がいた事例

小山様(81歳)仮名
 小山様は、ご自宅の相続登記をして欲しいとの依頼で来所されました。当初は、一般的な相続依頼かと思ってお話を伺っておりましたが、20年以上前に相続人間で遺産分割協議は済ませており、登記だけしていないとのことでした。

 遺産分割協議書の原本は、金融機関の貸金庫に保管してあるとのことでしたので、小山様と一緒に貸金庫に行くこととしました。なお、過去の遺産分割協議書であっても、書類に不備がなければ、それをもって相続登記を申請することはできます。

 貸金庫に赴いたところ、遺産分割協議書原本自体はあったのですが、それに添付されている印鑑証明書が全てコピーでした。遺産分割協議書には実印で押印し、印鑑証明書を添付しますが、相続登記をするうえで、コピーは使用できません。念のため、そのコピーにより、遺産分割協議書の印影を確認したところ、印影は全て実印で押印されていることが明らかでしたので、あとは遺産分割協議書に押印した相続人の方に連絡を取り、再度印鑑証明書原本を取得していただければ、手続きを進めることができるはずでした。

 ところが、既に20年経過していたこともあり、遺産分割協議書に押印した相続人のうち2名がお亡くなりになっており、さらに、相続人のうち1名が当時の印鑑証明書の住所から引っ越しをされていることが判明しました。

 お亡くなりになっている方については、もちろん印鑑証明書を再取得できませんので、まず、過去の遺産分割協議書が真正に成立したものである旨を証明する文書を当事務所で作成し、お亡くなりになっている方の相続人の方に押印を頂くこととしました。

 また、引っ越されている方については、遺産分割協議書原本自体に「本書に押印した印鑑は改印前の私の実印に相違ありません」と奥書していただき、今の実印で押印して頂きました(引っ越しをされたときに、実印登録を以前と異なる印鑑でされていました)

 ところで、お亡くなりになっていた方の相続人は5名いたのですが、そのうち1名が台湾にお住まいでした。遺産分割協議書には実印で押印しますが、台湾に限らず、海外には印鑑文化がありません。したがって、海外居住者は現地在外公館で署名証明をすることにより、印鑑証明の代わりとすることができます。(台湾の場合は、日台交流協会)
 

 海外とのやりとりもあったことから、相続登記完了まで相談から1か月程度かかりましたが、無事手続を終了することができました。

登記名義人がお亡くなりになってから、30年以上経っていた事例(遺産分割協議未了)

佐藤様(75歳)仮名
 佐藤様は、お父上が亡くなり、当事務所に来所されました。自宅の土地建物及び農地の名義を変更して欲しい旨のご依頼でした。

 当事務所で調査してみると、不動産はお父上名義ではなく、佐藤様のご祖母様名義となっていました。佐藤様のご祖母様は、昭和期に既に亡くなられており、ご祖母様の相続人は、佐藤様のお父上を含む兄弟3名でした(ご祖母様の配偶者、つまり、佐藤様のご祖父様は、ご祖母様より先に亡くなられていましたので、ご祖母様の相続人となりませんでした)。なお、ご祖母様の財産に関する遺産分割協議はしていないとのことでした。また、佐藤様のお父上の相続人は、佐藤様と妹さん1名とのことでした。

 このような場合、ご祖母様の相続人3名で本来遺産分割協議を行うべきところ、既にそのうち佐藤様のお父上はお亡くなりになっているため、遺産分割協議には、佐藤様のお父上の兄弟2名に加え、佐藤様のお父上の相続人である佐藤様と妹が参加して行います。

 佐藤様と妹はご祖母様の直接の相続人ではなく、お亡くなりなった佐藤様のお父上の代わりに、ご祖母様の遺産分割協議に参加するのです。あくまでも、ご祖母様の相続財産は、佐藤様のお父上を含む兄弟3名が相続することに変わりありません。

 最終的に佐藤様名義にするためには、ご祖母様の財産を、一旦、佐藤様のお父上が相続し、佐藤様のお父上の相続財産として、今度は佐藤様がそれを相続する流れとなります。

 佐藤様の妹及びお父上の兄弟2名は、不動産を佐藤様名義にすることを了解されておりましたので、その内容を汲んで遺産分割協議書を作成致しました。

 このような場合、登記の手続上、本来は、①ご祖母様→佐藤様のお父上(所有権移転)②佐藤様のお父上→佐藤様(所有権移転)と2段階の登記手続となりますが、中間の①の登記を省略して、ご祖母様→佐藤様への相続登記を直接する方法があります。

 本件は、そのように中間を省略して、佐藤様名義に変更致しました。2件の登記を申請するよりも、1件の登記で済ませる方が費用的にも安くなるため、佐藤様には喜んで頂けました。

遺言による登記事例(遺贈)

薮田様(63歳)仮名
 薮田様は、遺言書を持参して来所されました。薮田様名義に不動産の名義を変更して欲しいとのご依頼でした。薮田様は、遺言者(お亡くなりになった方)の相続人ではなく、遺言書には、「遺言者は薮田様に全財産を遺贈する」との記載がありました。

 遺言書による登記は、その遺言が公正証書によるものなのか、あるいは自筆によるものなのかにより、若干手続が異なります。

 公正証書による遺言は、その遺言書をそのまま登記申請等に使用できますが、自筆で作成された遺言は、登記の前に、裁判所に対し「検認」という手続を申し立てる必要があります(令和2年7月以前:法務局による自筆証書遺言保管制度施行前の場合)

 まず、薮田様にその旨説明し、当事務所で検認手続を行いました。本来であれば、検認が済んだ段階で、登記による名義変更を行うこととなるのですが、本件は「遺贈」による名義変更のため、もう一つ手続きを踏む必要がありました。

 仮に薮田様が遺言者の相続人であれば、遺言書に「薮田様に相続させる」との記載があり、相続を原因とした名義変更登記を申請することとなります。この場合は、相続で財産を取得する人が単独で登記を申請できます。しかし、遺贈を原因とする名義変更の場合は、登記の手続上、あくまでも遺言者が取得者(薮田様)に財産を譲与する形となりますから、遺言者と取得者が一緒に申請する必要があります(共同申請)

 もちろん、遺言者は既にお亡くなりになっているので、登記を申請することはできません。したがって、遺言者の代わりに、遺言者の相続人が薮田様と共同で申請行うことができます。通常であれば、まずそれを検討し、遺言者の相続人に協力してもらえるかを確認するのですが、本件においては、遺言者には相続人がいませんでした。

 このような場合、裁判所に対して、亡くなった遺言者の代わりに遺言を執行する「遺言執行者」の選任を申し立てることが可能です。遺言執行者と薮田様の共同申請により、不動産の名義変更を行うのです。

 遺言執行者には、私のような専門職はもちろん、一般の方も就任することができます。また、遺贈により財産を取得する人、つまり、薮田様自身も就任できます。薮田様が遺言執行者に就任した場合、遺言執行者としての立場での薮田様と財産を取得する個人としての薮田様が共同して名義変更を行うこととなります。同じ薮田様が一人で共同申請と聞くと何か違和感がありますが、登記の手続上可能です。

 本件では、薮田様を遺言執行者として申立を行い、無事薮田様が遺言執行者に選任されました。続く不動産の名義変更も、先に述べたように、遺言執行者薮田様と遺贈を受ける立場での薮田様の共同申請により、薮田様の名義に変更致しました。

遺産分割調停を用いた事例

木場様(50歳)仮名
 木場様は、知り合いの税理士の方からご紹介頂きました。相続による不動産の名義変更のご依頼でしたが、一般的な相続登記であると説明を受けていましたので、当初は1週間程度で完了すると想定していました。相続人は、木場様を含む兄弟3名でした。

 話を進めるうちに、どうやら、1名の方(以下「Aさん」)と木場さんを含む2名との間で感情的な争いがあることが分かりました。遺産分割協議は、相続人全員の合意があって初めて成立しますので、1名の方が分割協議内容に首を縦に振らなければ、協議完了とはなりません。

 司法書士は、家事事件(相続などにおける争い)において、弁護士のように代理人になることはできません。つまり、一方の側に立って、一方の有利になることを主張することができません。木場様には、その旨を説明し、ご家族間で協議をまとめて頂く必要があるとご理解いただきました。ある程度、お話がまとまりそうだということでしたので、木場さんから伺った内容の遺産分割協議書を作成し、確認のために、Aさんにも電話連絡したところ、Aさんの配偶者の方とお話することができたのですが、何か感情的になっているように見受けられました。

 とりあえず、まだ協議ができるような印象ではなかったため、木場様と相談したうえで、もうしばらく時間の経過を待ちながら、折をみて木場さんからAさんにお話ししていただくことと致しました。

 1か月くらい経過した後、木場様から連絡があり、Aさんと話はできるが、相続の話をすると、「弁護士に話をしてある」などの返答に留まり、全く遺産分割協議に応じてくれないとのことでした。木場様がAさんに対して、「弁護士を教えてくれれば連絡する」と言っても、Aさんは弁護士を教えてくれない状況でした。

 相続財産の中には、木場様がお住まいの不動産も含まれていましたので、木場様からすると、できるだけ早く遺産分割協議を完了したいとのご希望でした。このままAさんに連絡を取り続けても無為に時間だけが過ぎてしまう恐れもあったことから、当事務所で裁判所の手続である遺産分割調停について説明し、申立書を作成致することとしました。

 遺産分割調停を申し立てると、Aさんにも裁判所から通知が来ます。その後は、通常1か月後くらいの日時で、木場様とAさん双方が裁判所に赴き、そこで調停委員により調停をしてもらう流れとなります。木場様とAさんが顔を合わすことはありません。お互い別々の部屋で調停委員と話をします。

 仮に初回の調停で双方の希望が折り合わなければ、2回、3回目の調停が執り行われます。その後どうしても合意に至らない場合は、審判手続に移行していきます。調停はあくまでも話合いなので、複雑な事情がない限り、弁護士を付けずとも、本人自身による手続きが十分可能となっています(相続財産の範囲や評価、生前の贈与などで争いがある場合は、弁護士を付けた方がよい場合もあります)

 本件においては、初回の調停日で木場様とAさんの間で合意が成立し、その調停結果をもって、木場様名義の相続登記を申請することができました。木場様にも調停手続を行ってよかったと言っていただけました。