【浜松市】相続土地国庫帰属制度【司法書士】

相続土地国庫帰属制度の農地

 以前こちらのブログで、昨年4月27日から開始された「相続土地国庫帰属制度」について投稿しました。

  『相続土地国庫帰属制度』(令和5年10月12日申請)

 相続した不要な土地を国に帰属させることができる新制度として、注目されていた制度でしたが、今年3月末日時点の法務省の統計によれば、全国での申請件数は1905件、帰属件数は248件となっています。昨年5月からの約11カ月間で、都道府県あたり約3件程度の申請がされていることは、個人的には「意外と多いな。」という印象です。

  法務省「相続土地国庫帰属制度の統計」

 というのも、この制度の想定される対象としては、おそらく農地及び山林となりますが(宅地であれば大抵売却できるため、帰属させる必要がない。)、農地及び山林の場合、境界が不明な土地が多く、それが申請のうえで大きなハードルになるだろうと考えていたからです。しかし、蓋を開けてみると、帰属件数のうち約半分の土地が宅地となっており、申請件数も698件と、ほぼ農地と同数が申請されています。

 おそらく、この宅地のほとんどは、数坪の小さいものや、また、建物が建てられなく利用価値がないような売れない宅地なのでしょう。いずれにしても、全国には、そうした処分に困る宅地が多くあるということが良く分かります。

 

実際の申請事例から【農地を帰属させる際の障害】

 実は、最近、当事務所でも実際に本制度の申請をいたしました。対象は農地です。

 申請手続中、色々と検討しなければならないことも判明したのですが、まず上記の法務省統計を再度見てみたいと思います。

 上記統計によれば、申請件数と帰属件数は以下のようになっています。

地目申請件数帰属件数
宅地698107
農地72857
山林2806
その他20678
令和6年3月31日法務省統計データから

 農地と宅地は、申請件数はほぼ変わりませんが、帰属件数を見ると、宅地は農地の倍となっています。

 一見すると、宅地とは、基本、建物がある、またはあった土地ですから、境界杭なども存在していることが多く、境界が確定しているという申請条件をクリアし易いためであると捉えがちです。しかし、本手続において、境界が確定していることは、そもそも申請できるかどうかの基本要件ですので、728件の農地に係る申請は、境界についての要件はクリアしているはずです(統計によれば、境界が明らかでなく却下された土地は2件に過ぎません。)

 したがって、農地と宅地の帰属件数の差の理由は、他にありそうです。

 

農地の相続土地国庫帰属制度申請にあたり検討すべきこと

 おそらく、宅地に比べ、農地は制約が多いことが理由なのでしょう。そもそも農地は国の施策により農地法等で管理されていますし、他にも各種法人や団体によって義務を課されている場合があります。例えば、土地改良区の問題があります。

 土地改良区とは、土地改良事業を行うための団体で、土地改良法により認められた法人で、県知事の認可により設立されます。簡単に言えば、農地を農地所有者等の全員の協力のもと適切に管理していくために設立される団体です。

 土地改良区は、農地の用水路や排水の維持管理などを行いますが、土地改良区に指定された土地の所有者等は必ずその組合員になります。組合員になると、そうした維持管理に必要な費用の負担が課されます。

土地改良区によっては、毎年管理費用として賦課金を支払わなければならない場合もあり、これは、金銭債務ですので、相続土地国庫帰属申請手続において不承認事由となりえます。

 ほぼ全ての農地は、土地改良区に属しているため、相続土地国庫帰属制度申請にあたっては、毎年の費用負担があるかどうかを確認する必要があります。浜松市の場合、賦課金等の費用負担がない場所もあるようです。

 但し、毎年の費用負担はなくとも、農地を宅地化する際に、決済金という名目の維持管理費をその際に払う必要があります。確認したところ、浜松市の場合、㎡あたり30円とのことでした。

 

 また、土地改良区とは別に何らかの団体等に属している場合もあります。例えば、水利組合などが別にある場合もあります。水利組合は、今日では多くが土地改良区に移行しておりますが、地域団体として残存している場合もあります。私が今回申請した土地にも、水利組合が存在しておりましたが、確認したところ、費用負担はないとのことでした。

 ところで、賦課金等の費用が発生している場合、相続土地国庫帰属制度を申請することはできないのでしょうか。

 法務省の相続土地国庫帰属制度のQ&Aを確認すると、土地改良区の賦課金が発生している農地は、不承認事由にあたるとされています。

 法務省「相続土地国庫帰属制度Q&A、不承認事由Q20等」

 この点につき、法務局の審査部門に事前確認したところ、こうした賦課金等の債務がある農地が申請された場合は、審査部門から、土地改良区等に対し、こうした賦課金等を放棄できるかにつき問い合わせているとのことでした。金銭債務が放棄されれば、不承認事由に該当しないこととなりますが、今回の申請にあたり、口頭で問い合わせた際の説明でしたので、実際にどのように審査されているかは不明です。よく考えると、土地改良区の賦課金は地域の農地管理のために必要な費用ですので、仮にそれが国庫帰属の際に必ず放棄されるのであれば、その数が増えていくことにより、適切な農地管理に支障をきたす可能性もあります。そのため、事例により、そうした運用が可能かどうかは異なると思われます。

 いずれにしても、相続土地国庫帰属制度は、昨年4月に開始されたばかりの新しい制度です。したがって、まだ全般的に経験が少なく、実務を重ねていく中で、今後問題点があれば、それを解消するための変更なども行われていくのでしょう。