【司法書士】養子の代襲相続について【相続】

養子縁組届

 養子縁組をすると、養親と養子は、民法809条に「養子は、縁組の日から、養親の嫡出子の身分を取得する。」と規定されているとおり、法律上は実の親子と同様の関係になります。したがって、養親が亡くなった際には、養子は実子と同様に養親を相続する権利を有します。

 また、養親の親(「祖父」)が亡くなった際は、本来、養親が相続しますが、養親が祖父より先に亡くなっていた場合も、原則、養子の子は養親を代襲して、祖父の遺産を相続することができます。

 ただし、縁組の時期によっては、代襲して相続することができない場合もありますので注意が必要です。

 実は、つい先日、ご自身で相続登記をしようとして、インターネットの相続登記書類作成代行サービスに申込み、その後、当事務所に依頼をして下さった方がおりました。その書類作成代行サービスの相続登記書類を確認すると、前提の法律知識において、間違った認識に基づく書類がありました。

 ご依頼頂いた際には、その書類作成代行業者の書類があり、依頼者に確認したところ、その書類群が郵送されてきて、署名押印して法務局に持参すればよいと言われたとのことでした。「登記申請書」、「遺産分割協議書」があり、遺産分割協議書には、附箋で各相続人が署名押印する場所が示されておりました。

 その相続人の範囲について、書類作成代行サービスの認識が間違っていたのです。

 

養子がいる場合の代襲相続

 

養子縁組前に生まれた子は代襲しない

 事例は、以下のとおりです。

 被相続人(養親)には、実子(長女)がおり、その長女の配偶者を養子にした事例です。よくある縁組事例です。

 但し、養子には前妻がおり、前妻との間に子がおりました。

 

養子の代襲相続図

 依頼者は孫の丙ですが、書類作成代行サービスの遺産分割協議書には、養子の子「戊」の署名押印欄もありました。丙と戊は、付き合いがなく、かつ、戊は他県在住であったこともあり、ご自身で手続をするのが大変と判断され、ご相談に来られたのです。

 結論から申し上げると、今回の事例において、被相続人甲の相続に関する遺産分割協議書には、戊の署名押印は必要ありません。

 まず、甲の相続人は、本来、配偶者と長女及び養子の乙となります。しかし、配偶者は既に死亡しており、長女及び乙も同様に死亡しています。そのため、孫の丙及び丁が、地長女及び養子乙を代襲して甲を相続します。

 一方、養子の子戊ですが、同様に養子乙を代襲して、甲を相続するようにも見受けられます。しかし、代襲相続には要件があります。

代襲相続とは

(子及びその代襲者等の相続権)

民法第八百八十七条 被相続人の子は、相続人となる。

 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。

 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第八百九十一条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。

 上記のとおり、代襲相続するために、代襲者が被相続人の直系卑属(血族関係のある子や孫)である必要があります。確かに、戊は養子乙をとおして養親の孫の関係にあるように見受けられますが、養子縁組前に生まれた養子の子(例えば、連れ子など)は、養親との間で血族関係は生じないとされています。

 戊の生年月日は、昭和60年1月1日であり、養子乙と養親甲の縁組日は、平成2年1月1日ですから、戊は、養子縁組前に生まれた子であり、養親甲との間に血族関係は生じず、養子乙を代襲することはありません。

 したがって、丙と丁のみで被相続人の遺産分割協議を行えばよく、戊の関与は必要ありません。

 

養子縁組前に生まれた子が代襲できる場合もある

 次に、以下の事例ではどうでしょうか。

養子の代襲相続図

 先の事例と異なり、被相続人甲の実子である長女は存命しています。そのため、甲の相続人は、長女となります。丙は、長女及び養子との間の実子ですが、丙出生後に、養子は養子縁組をしています。

 この場合も、養子縁組前の子は、養子を代襲して相続することができないのでしょうか。

 平成元年8月10日の大阪高裁判決では、次のように判示されています。

平成元年8月10日の大阪高裁判決要旨

 丙は、亡乙の養子縁組前の子であるから、亡乙を通じて甲とは親族関係を生ぜず、したがって、甲の死亡による相続に関して亡乙の代襲者となり得ないとの考え方もあるが、民法887条2項ただし書きにおいて、「被相続人の直系卑属でない者」を代襲相続人の範囲から除外した理由は、血統継続の思想を尊重するとともに、親族共同体的な観点から、相続人の範囲を親族内の者に限定するすることが相当であること~によるものと思われるところ、丙はその母である長女を通じて被相続人の直系の孫であるから右条項の文言において直接違反するものではなく、~丙には被相続人甲の遺産に関し代襲相続権があるのと解するのが相当である。

 したがって、上記判例にしたがえば、丙は父である養子乙を代襲して、甲を相続することとなり、甲の相続について母である長女と遺産分割協議を行うことになります。

 なお、平成元年8月10日判決においては、丙に兄弟姉妹がおり、その者は養子縁組後に出生していたため、乙を代襲し甲を相続できた状況がありました。同じ兄弟姉妹でも出生が養子縁組前か後かにより代襲できるかどうかに差が生じることは不合理であったことも、本判決に影響していると思われます。

 このように、養子縁組があると、相続人の範囲の確定が簡単ではない場合もあります。これは、遺産分割協議を行うようないわゆる相続の承認の際だけではなく、被相続人に借金がある場合に、相続放棄をするべきかという判断にも影響を与えますので注意が必要です。