【生前対策】自己株式の取得【会社】

 浜松市に限らず、日本全国には多くの中小企業が存在します。そのほとんどは、家族経営であり、「株主=取締役などの役員」であることが通常です。

 ところで、現在は、1人株主が許されておりますが、昭和期に会社を設立する際は、最低7名の設立時株主が必要とされておりました。また、現行の平成18年施行会社法以前は、資本金も今のように「1円」とすることもできず、最低1000万円とされていたことから、家族以外の友人など複数名で会社を設立することも珍しくありませんでした。

 大抵、昭和期などに設立された会社の多くは、今日までに、株主間の株式譲渡などにより、現在実質的に会社を運営している役員家族に、株式を集約していることが常ですが、未だに、名義株的な昔からの株主が残っている会社も珍しくありません。

 こうした会社で問題となるのは、それら株主が亡くなった際の手続です。株式は、遺産として、相続人が取得し、その相続人が会社の株主となることとなりますが、多くの家族経営会社にとって、家族以外の部外者が経営に参加してくる状況は、あまり望ましい状況ではありません。また、経営に参加してこなくても、縁もゆかりもない人物が、会社の株主である状況は、機動的な会社運営を損なう恐れもあります。

 そうした状況を避けるためにも、多くの家族経営会社では、株主の相続発生前に、家族以外の株主から家族株主への株式譲渡などを行うわけです。

 株式譲渡を株主間で行う場合には、株式の譲渡契約書を作成し、株主総会での譲渡制限株の譲渡承認決議を経ることとなります。(多くの中小企業では、勝手に株の売買ができないように、株式の譲渡を制限する規定が存在します。)

 しかし、利益が出ている会社の株式は、中小企業であっても、数千万円の評価となる場合もあります。個人株主が数千万円の資金を捻出することは簡単ではありません。また、その会社の業績が好調で、株式の評価が将来的に上がる可能性がある場合、譲受人の相続財産が増え、株式を家族間で集約できても、相続税の負担が増えてしまうことも考えられます。

 そのような場合に、株主間で株式を売買するのではなく、会社が株主から株式を取得する方法が検討できます。

自己株式の取得とは

 会社が発行している自己株式を、株主から買取る方法は、会社法で法定されています。したがって、株主間のように株式譲渡契約書を作成する手続とは異なります。

 会社による自己株式の取得手続は、株主全員から平等に取得する場合と、特定の株主からのみ取得する場合がありますが、中小企業においては、おそらく後者の場合であると思われますので、特定の株主から自己株式を取得する方法について説明します。

 なお、自己株式を取得する場合は、取得価額の総額が分配可能額を超えることはできません(会社法第461条第1項)

 手続方法は、以下のとおりとなります。

事例
株式会社甲乙不動産
株主 甲(50株/代表取締役)、乙(30株/取締役/甲の妻)、丙(10株)、丁(10株)
丙と丁(特定株主)の全株式20株を会社で買取る

 

手続内容
(日付は例)
                               備考会社法条文
令和6年5月1日
株主への株主総会開催の通知
株主全員に対し、特定株主から自己株式を取得する旨の決議を議案とする株主総会の開催を通知します。
株主総会の開催通知は、原則、株主総会の2週間前までに通知する必要があります。
(株主平等の原則から、株主全員に売却機会を与える必要があり、その観点から、株主全員に通知し、仮に、特定株主以外の株主から、取得の相手方に加える旨の申し出があった場合は、会社はその者を取得対象に加えなければなりません)
第160条第2項
令和6年5月2日~令和6年5月11日
売主追加請求権の行使期間
特定株主以外の株主のうち、自己も相手方に加えることを請求する場合(売主追加請求権といいます)には、原則、株主総会の5日前までに、会社にその旨を通知しなければなりません。
会規則第29条
令和6年5月16日
株主総会特別決議
株主総会の特別決議にて、以下の事項を決議します。
 取得する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)
 株式を取得するのと引換えに交付する金銭等(当該株式会社の株式等を除く。以下この款において同じ。)の内容及びその総額
 株式を取得することができる期間(但し、1年以下)
第156条第1項
令和6年5月16日
取締役会決議又は取締役の過半数決議
株主総会決議にて上記の内容を決議した後、取締役会設置会社では取締役会、非設置会社では取締役の過半数決議にて、以下の事項を決議します。
 取得する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び数)
 株式一株を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法
 株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の総額
 株式の譲渡しの申込みの期日(株主総会で決議した期間内の日)
第157条第1項
令和6年5月17日
特定株主への通知又は公告
会社は、特定株主に対し、取締役会等で決議した内容を通知しなければなりません。第158条第1項
令和6年5月17日~申込期日
特定株主からの申込み
特定株主が、会社に対し、株式の譲渡しの申込みを行います。第159条
第1項
申込期日会社は、申込期日に、特定株主からの株式譲渡の申込みを承諾したとみなされます。(契約の成立/効力発生日)第159条
第2項
申込期日以降
株主名簿の書換え
会社は、株主名簿を書換えなければなりません。第132条第1項第2号

 

 ところで、個人株主間で株式譲渡する際には、株式譲渡契約等を締結しますが、会社と株主間の場合は、契約書は必要ありません。しかし、商慣行上、契約書の作成をする場合もありますが(例えば、株主総会決議等を得られることを条件とした譲渡契約書等)、株式の譲渡の効力は上記手続に基づき発生するため、契約書等は、その手続の確認的な意味の書類となるに過ぎません。

 浜松市中央区のくわはら司法書士事務所では、こうした自己株式取得のお手伝いもさせて頂きます。お気軽にお問合せ下さい。

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