【司法書士】会社の定款とは

定款

目次

定款とは

定款作成方法

定款の関する会社の義務

旧有限会社の定款

 会社を経営していると、金融機関や行政機関に対し、定款の提出が必要となる場合があります。既に、金融機関から借り入れをしている会社あるいは行政機関に対し許認可の申請などをしている会社においては、定款内容に不備があると、融資や各種許認可申請等の手続が滞る可能性があることから、定款も現在の会社組織に即した内容となっているはずです。

 一方で、特段そうした新規の手続きをしていない会社においては、古い定款と現在の会社組織形態が合致していない場合もあります。正直なところ、日常の会社運営に際し、定款を使用する場面というのは、前述の金融機関手続や行政機関手続程度であることもあって、定款が古いままであっても、そのことに気づかず、そのままにしている会社も多いように感じます。

 しかし、定款とは会社の運営を基礎づける根本規則であり、また会社法上でも定款についての義務が明記されている以上、しっかりとした定款を整備することは、会社を運営していくうえでも最低限必要なことです。また、現行の会社法に即した定款を整備することは、円滑な会社運営に資するだけではなく、将来の紛争を事前に防止することにもつながるため、昔からの古い定款をそのままにしているような場合は、できるだけ速やかに現在の会社に適した内容に変更することをお勧めいたします。

定款とは

 定款とは、会社を国に例えれば、「憲法」のような根幹となる決まり事を記した書類(又は電磁的記録)のことです。

 会社は定款の記載に沿って運営され、定款に記載された事項と反する行動はできません。例えば、会社には、「目的」があります。車の販売会社であれば、①車の販売②車の修理などとなるでしょうが、これら目的は定款に記載されます。定款に会社の事業目的が記載されているからこそ、会社はその目的たる事業を行うことができます。

 また、商号や所在地(本店)も定款に記載されます。こちらも定款に記載されているから、会社はその商号を名乗ることができ、また、その場所で業務を行うことができます。

 ところで、定款には、絶対的記載事項と呼ばれる事項があります。会社法上、定款において必ず定めなければならないとされる事項です。実は、この絶対的に定めなければならない決まり事の数は多くありません。①商号、②本店、③目的、④発起人(会社設立時株主)の氏名住所、⑤④の出資額、⑥発行可能株式総数、これだけです(但し、これ以外にも、定款に記載しなければ効力が生じない事項もあります/相対的記載事項)

 極論を言えば、上記6つの事項さえ定款に記載があれば、有効な定款として成立します。しかし、一般的な定款では、上記以外の事項についても定められているのが通常です。例えば、役員の員数、その任期などは、どの会社の定款にも記載があります。

 仮に、役員についての事項が定款になければ、役員の選退任に際し、手続きが滞ってしまうことが考えられます。また、おそらく、金融機関などに定款を提出する際にも、金融機関側から記載がない理由につき指摘されるでしょう。

 多くの会社において、絶対的記載事項以外の事項が定められているのは、国の憲法や法律と同様に、事細かに定款で決め事やルールを定めておくことで、スムーズな会社運営が可能となるからです。

 

 

定款の作成方法

 会社は、設立する際に定款を作成しなければなりません。株式会社であれば、公証人の認証が必要となります。また、合同会社などの持分会社であれば、公証人認証は不要ですが、定款そのものは設立時に作成する必要があります。

 よって、そもそも定款がない会社というのは存在しません。

 しかし、当事務所の業務において、「定款を拝見したい」旨をお伝えすると、意外と多くの会社から、「定款がどこにあるか分からない」、「定款?」というような返答を頂きます。おそらく、設立時に定款は作成したものの、その後、定款を使用する場面がなかったため、こうした状況が生まれているのでしょう。

 また、定款記載内容に変更が生じているにも関わらず、定款記載が古いままの場合もあります。会社を運営しているご本人は、特段悪気があるわけではなく、単に会社法の規定等を知らなかっただけだとは思いますが、いずれにしても、宜しい状態ではありません。

定款を変更するには、株主総会の特別決議が必要

 会社法第466条では、次のように定められています。

第466条(定款の変更)

株式会社は、その成立後、株主総会の決議によって、定款を変更することができる。

会社法

 ここでいう決議とは、特別決議のことです。特別決議とは、原則、議決権の過半数が出席し、その出席議決権の3分の2の賛成が必要な決議です。

 

定款の様式とは

 株式会社を設立する際は、公証人の認証を受けることとなります。その場合、公証人の認証印が押印された立派な紙の定款を受領することが多いことから、多くの方が、定款とはこの公証人の認証印が押印されている必要があるものと誤解されています。

 確かに、株式会社設立時においては、公証人の認証が必要なことから、定款はこうした形態となりますが、上記会社法第466条で定められているとおり、定款は、会社設立後に、変更できます。

 変更した定款については、公証人の認証を受けることは要件とされていません。株主総会の特別決議で変更された定款の証明は、会社代表者が行うのが通常です。その方法は、特に定められてはおらず、定款末尾に以下のような文言を記入し、そこに会社代表印を押印することが一般的です。

定款末尾に記載する文言

本書は当会社の定款に相違ない。

令和3年〇月〇日 

株式会社法務商事 

代表取締役 法務太郎 印(登記所届出印)

 登記してある会社の代表者が、登記所(法務局)に届出している届出印(代表印)で押印することにより、会社定款の真正を証明します。頁が数葉にわたる場合には、各頁間に割印をします。

 使用する紙は、A4サイズの紙でもいいですし、A3で作成することでも構いません。様式に特段の定められた形式はありません。

定款に関する会社の義務

 会社法上、以下の事項が会社の義務として定められています。

  • 備え置き義務
  • 閲覧等の請求に応じる義務

 会社は、定款を本店及び支店に備え置きしなければなりません(会社法第31条第1項)。

 また、株主及び債権者は、いつでも、定款の閲覧、謄本の請求をすることができます(会社法第31条第2項)。これは拒むことができません。金融機関が、融資に際し、定款を求める根拠はここにあります。

 上記義務に違反した場合は、100万円以下の罰金が、代表者たる取締役に課されます。

 備え置く定款は、当然に、現在の会社組織に即した内容の定款でなければなりません。例えば、古い定款をそのまま備え置きしておくと、無用の紛争にも繋がりかねませんので、古い定款のままなのであれば、しっかりと整備されることをお勧めします。

 

旧有限会社の定款

 会社法施行と同時に、有限会社法は廃止され、旧有限会社は、株式会社の一つとして存続することとなりました。

 それにより、旧有限会社時代の定款も、本来、株式会社を規定する現行の会社法に沿った内容に変更すべきところですが、古い定款については、みなし規定を置くことで対応することとなりました。

会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(通称:整備法)

第2条 前条第三号の規定による廃止前の有限会社法(以下「旧有限会社法」という。)の規定による有限会社であってこの法律の施行の際現に存するもの(以下「旧有限会社」という。)は、この法律の施行の日(以下「施行日」という。)以後は、この節の定めるところにより、会社法(平成十七年法律第八十六号)の規定による株式会社として存続するものとする。

 前項の場合においては、旧有限会社の定款、社員、持分及び出資一口を、それぞれ同項の規定により存続する株式会社の定款、株主、株式及び一株とみなす。

 第一項の規定により存続する株式会社の施行日における発行可能株式総数及び発行済株式の総数は、同項の旧有限会社の資本の総額を当該旧有限会社の出資一口の金額で除して得た数とする。

第5条 旧有限会社の定款における旧有限会社法第六条第一項第一号(目的)、第二号(商号)及び第七号(本店所在地)に掲げる事項の記載又は記録はそれぞれ第二条第一項の規定により存続する株式会社の定款における会社法第二十七条第一号から第三号まで(目的、商号、本店所在地)に掲げる事項の記載又は記録とみなし、旧有限会社の定款における旧有限会社法第六条第一項第三号から第六号まで(資本金総額、出資一口金額、社員氏名住所、社員出資口数)に掲げる事項の記載又は記録は第二条第一項の規定により存続する株式会社の定款に記載又は記録がないものとみなす。

 旧有限会社における旧有限会社法第八十八条第三項第一号(公告:日刊新聞)又は第二号(公告:電子公告)に掲げる定款の定めは、第二条第一項の規定により存続する株式会社の定款における会社法第九百三十九条第一項(日刊新聞、電子公告)の規定による公告方法の定めとみなす。

 旧有限会社における旧有限会社法第八十八条第三項第三号に掲げる定款の定めは、第二条第一項の規定により存続する株式会社の定款における会社法第九百三十九条第三項後段の規定による定めとみなす。

 前二項の規定にかかわらず、この法律の施行の際現に旧有限会社が旧有限会社法第八十八条第一項に規定する公告について異なる二以上の方法の定款の定めを設けている場合には、施行日に、当該定款の定めはその効力を失う。

 会社法第二十七条第四号(設立に際し出資される財産価額)及び第五号(発起人の氏名住所)の規定は、第二条第一項の規定により存続する株式会社には、適用しない。

第9条 特例有限会社の定款には、その発行する全部の株式の内容として当該株式を譲渡により取得することについて当該特例有限会社の承認を要する旨及び当該特例有限会社の株主が当該株式を譲渡により取得する場合においては当該特例有限会社が会社法第百三十六条又は第百三十七条第一項の承認をしたものとみなす旨の定めがあるものとみなす。

 特例有限会社は、その発行する全部又は一部の株式の内容として前項の定めと異なる内容の定めを設ける定款の変更をすることができない。

会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律

 上記の法律により、旧有限会社の定款上の用語は、株式会社移行後も、会社法上の用語に適した内容に置き換えられています。

 また、整備法では、株主、債権者による定款の閲覧謄写請求に対し、次のように定められています。

第6条 第二条第一項の規定により存続する株式会社は、会社法第三十一条第二項各号に掲げる請求に応じる場合には、当該請求をした者に対し、定款に記載又は記録がないものであっても、この節の規定により定款に定めがあるものとみなされる事項を示さなければならない。

会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律

 つまり、みなし規定のままの定款である場合には、定款のほかに別途書面を用意し、定款と合わせて備え置く必要があります。例えば、旧有限会社の定款上には、整備法9条で規定される「株式の譲渡制限規定」については記されていませんが、こうした事項がある旨を書面上に記載しておく必要があります。

 したがって、結局のところ、別に書面を用意する必要があるのであれば、現行の会社法に適した内容に定款を変更しておく方が、事務手続上も宜しいと思います。