【浜松市】相続放棄と孤独死【司法書士】

 ここ数年、徐々にではありますが、孤独死が増えているように感じます。突然、親族の一人が亡くなっていたことを知り、その方の相続放棄を検討される事例が増えています。

 亡くなるまで、付き合いがほとんどなく、元気で過ごしていると思っていたところ、突然、警察等から連絡があり、死亡の事実を知ることとなります。気の毒なお話ではありますが、誰にも看取られることなく、お亡くなりになり、死後数か月経ってから、死体が発見されるケースは、決して少なくありません。おそらく、現在の社会状況を鑑みると、このようなケースは今後も増えてくると思われます。

警察からの連絡と遺体の引き渡し

 孤独死の場合、死後数か月経ってから、遺体が発見されることが多く、警察からの最初の連絡時点では、亡くなられた方の住所地で身元不明の遺体が発見された旨の連絡に留まり、「おそらく親族だと推定されるが、遺体の損傷が激しいため、DNA鑑定などにより、遺体検案する」と説明されます。その後1か月程度で遺体検案が完了し、身元が親族であった場合は、その旨の連絡が入ります。

 遺体は、通常、遺族たる相続人が引き取り、火葬することとなります。引き取りを拒否することも可能ですが、道義的に引き取りを選択する方が多いように見受けられます。火葬代は、引き取った相続人が原則負担することとなります。火葬場は、警察から、低額で利用できるを業者を紹介してもらえるようです。また、遺体検案を担当した病院等からは、相続人に対して、検案費用として、5,6万円が請求されます。

 引き取りが拒否された遺体は、警察から手続きの主体が市町村に移管し、市町村が火葬し(墓地、埋葬等に関する法律9条)、その火葬費用については、まず亡くなった方の財産があれば、そこから充当され、それでも不足が生じる場合には、相続人に対して後日請求されることとなります(行旅病人及行旅死亡人取扱法11条)

 なお、引き取った相続人が生活保護受給者であれば、葬祭扶助を受けることができ(生活保護法18条1項)、故人が生活保護を受けていた方で、火葬等を行った方が生活保護法上の扶養義務者に該当しない場合(例えば自治会長など)にも、扶助を受けられます(同法18条2項)

墓地、埋葬等に関する法律

第9条 死体の埋葬又は火葬を行う者がないとき又は判明しないときは、死亡地の市町村長が、これを行わなければならない。

 前項の規定により埋葬又は火葬を行つたときは、その費用に関しては、行旅病人及び行旅死亡人取扱法(明治三十二年法律第九十三号)の規定を準用する。

引用 墓地、埋葬等に関する法律

行旅病人及行旅死亡人取扱法

第11条 行旅死亡人取扱ノ費用ハ先ツ其ノ遺留ノ金銭若ハ有価証券ヲ以テ之ニ充テ仍足ラサルトキハ相続人ノ負担トシ相続人ヨリ弁償ヲ得サルトキハ死亡人ノ扶養義務者ノ負担トス

引用 行旅病人及行旅死亡人取扱法

生活保護法

第18条 葬祭扶助は、困窮のため最低限度の生活を維持することのできない者に対して、左に掲げる事項の範囲内において行われる。

 検案 死体の運搬 火葬又は埋葬 納骨その他葬祭のために必要なもの

 左に掲げる場合において、その葬祭を行う者があるときは、その者に対して、前項各号の葬祭扶助を行うことができる。

 被保護者が死亡した場合において、その者の葬祭を行う扶養義務者がないとき。

 死者に対しその葬祭を行う扶養義務者がない場合において、その遺留した金品で、葬祭を行うに必要な費用を満たすことのできないとき。

引用 生活保護法

 墓埋法、行旅法による火葬は、引き取り手がいない場合に、市町村が代わりに火葬等を行うことができる旨、遺留された金品をもってその費用に充てることができる旨を規定した法律です。

 前述のとおり、引き取りを拒否することもできますが、その場合には、後日、上記の法律に基づき費用を支払った市町村から、相続人に対して請求されることとなります。但し、相続放棄をすれば、それら費用についても支払う必要はありません。

 警察からは、遺留品として、故人の財布、現金、預金通帳などの受領も求められます。こうした遺留品については受領すること自体は問題ありませんが、受領した金品などを消費してしまうと相続を承認したこと(単純承認)となり、相続放棄に影響を与えるため注意が必要です。

故人の葬儀費用等について

 相続放棄を検討されるのであれば、遺体検案費用や火葬代は、亡くなった方の財産から捻出することなく、引き取った相続人たるご自身が負担する方がよいかもしれません。

 実は、「社会的に許容される一般的な葬儀費用であれば、相続財産から支出しても単純承認にならない」とした判例があり、故人の財産から火葬代を捻出しても、相続放棄は可能です。また、遺留品を受領しても、それを消費したりしなければ、同様に相続放棄に影響を与えることはありません。しかし、一般的な葬儀費用が明確でないこと、また、故人の債務状況にも影響されることを考慮すると、できるだけ単純承認にあたると誤解されるような行為はせずに、基本的には、亡くなった方の財産を使うことは控えた方がよいと思われます。

 なお、上記生活保護法18条の要件に該当すれば、葬祭扶助を受けることもできます(葬儀を執り行う喪主が生活保護受給者か故人が生活保護受給者の場合であって、親族以外が葬儀を執り行う場合)。また、故人が国民健康保険加入者であれば、5万円ほどを市町村に対して請求できます(浜松市)が、故人が生活保護受給者の場合は、国保未加入のため、支給対象に該当しません。

 遺留品については、これを受領した場合、相続放棄後も、それを管理する義務は残ります。相続人の全員が相続放棄をし、相続人が不在となった場合は、裁判所で相続財産管理人という相続財産の処理をする人を選任してもらい、その人がこの管理義務を引き継ぐこととなりますが、この相続財産管理人の選任には、数十万から100万円程度の予納金を裁判所に納める必要があります。

 この予納金を支払うのは、相続財産管理人選任を申立てる人であり、故人の財産がほとんどないような場合には、申立てをしないことも珍しくありません。

 相続財産管理人が選任されれば、受領した遺留品も、その管理人に引き渡せばよいのですが、選任しない場合には、それを保管し、管理し続けなければなりません。

民法

第940条 相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない。

引用 民法

 

不動産について

 孤独死された方が、一軒家、マンション等の自宅で亡くなった場合など、不動産を所有していたのであれば、注意が必要です。

 相続放棄をしても、遺産の管理義務は残るため、空き家となった不動産を適切に管理しなければなりません。老朽化が進んでいる家屋などは倒壊などの危険が生じる場合があります。相続放棄をすると家を壊したり、売ったりといった処分行為はできないため、そのままの状態で管理をしなければなりません。また、樹木の枝や雑草、ゴミなどの処理も発生する可能性があり、そうした手間が続くこととなります。

 よって、不動産がある場合には、この相続財産管理人の選任申立を検討することが通常です。但し、数十万~100万円程度の予納金を負担する必要があるため、そもそも相続放棄をすべきかを含め、慎重に検討する必要があります。

 

 次に、アパート等の賃貸住宅で亡くなった場合は、そのアパート自体は故人の財産ではなく、大家さんの所有物なので、そのアパートそのものである不動産(土地建物)を管理する必要はありません。相続放棄をすれば、故人と大家さんとの間の賃貸借契約も引き継ぎませんし、滞納家賃を支払う必要もありません。

 問題は、部屋の中に残された家財道具一式ですが、こうした家財道具を勝手に処分してしまうと、相続を承認したと見なされ、相続放棄ができなくなる恐れもあります。大家さんから、搬出を求められ、それを保管するだけであれば問題ありませんが、遺品を売却により換価し、それを消費してしまえば、相続の承認にあたります。

 また、孤独死の場合、亡くなった時点から発見まで数か月経っていることも多く、衛生上の観点から、室内に入ることすらできない場合があります。このような場合には、専門の遺品整理業者に依頼をすることとなります。この場合も、遺品整理業者により勝手に遺品が処分されてしまうと、相続放棄の手続に影響を与える場合があります。

 実務上、こうした賃貸住宅で亡くなった場合は、単純承認したという誤解をまねかないためにも遺品も受け取らず、衛生上の問題から室内を掃除等することもできず、かといって多額の予納金を納める必要がある相続財産管理人選任の申立もせずに、最終的に大家さんの負担となる場合が多いように見受けられます。

 

 連帯保証人である場合

 相続人の方が、アパートの連帯保証人である場合、相続放棄をしても、滞納家賃などの債務等から免れることはできません。相続放棄した相続人としての立場としては、債務を負うことは無くなりますが、相続放棄をしても連帯保証人でなくなるわけではないため、アパート契約に関係する債務を負担しなければなりません。

 また、問題となるのは、連帯保証人は、賃貸借契約から生じる債務を負担する存在であり、賃借人本人ではないことから、賃貸借契約を解除することはできません。特約等で保証人に対し契約の解除権を与えることも検討できますが、そもそも、そのような特約が明記されている契約書自体が多くはありません。

 したがって、賃貸借契約を解除するまで、保証人は将来の賃料を支払う必要があります。このような場合、相続財産管理人を選任すれば、相続財産管理人には解除権があるため、アパートの賃貸借契約を解除することができます。