【浜松市】遺産分割協議書の作成【相続】

遺産分割協議書

 相続手続においては、一般的に、遺言書が無い限り、「遺産分割協議書」という書類を作成することとなります。

 遺産分割協議書とは、相続人全員で、遺産の帰属先、つまり、誰がどの遺産を相続するかについて協議し、その結果を書面に起こしたものです。もちろん、協議を行わずに、不動産を法定相続分で登記することも可能ですが、遺産分割協議が未了の状態は、いわば、遺産の帰属先が不確定な状況であるため、依頼者の方がよほど希望しない限り、当事務所においては、この遺産分割協議書を作成しています。

 遺産分割協議書の形態は、特段、法定されておらず、A4の紙でも構いませんし、また、A3等の他の紙を用いても構いません。また、そこには、相続人が署名(自分で名前を書くこと)及び実印にて押印することが通常ですが、これも、法定されているわけではなく、記名(印字された名前)や認印であっても、法的な瑕疵はありません。

 しかし、後日の無用な誤解を招かないためにも、ほぼ100%、相続人自身の署名及び実印による押印をすることとなります。金融機関などの各手続先においても、その運用上、実印による押印を求められる慣行があり、そうした各窓口の手続の際にこの遺産分割協議書を提出する必要がある場合もあること、そして、不動産がある場合の法務局の手続においては、必ず実印による押印が求められていることもあって、やはり署名及び実印による押印が一般的です。ちなみに、当事務所では、これまで200件程度の相続手続のお手伝いをしておりますが、これまで、記名や認印で遺産分割協議書を作成したことはありません。

 ところで、具体的な遺産の帰属先を決める方法ですが、法定相続分の割合で、遺産を平等に分けることができれば問題ないのですが、実際は、その分け方で苦労する場合もあります。

遺産分割の態様

 通常のご家庭でよく見られるのが、「不動産Aは、妻が取得する。」、「預金Bは、長男が取得する。」といった内容です。これは、『現物分割』と呼ばれ、遺産を現物のまま配分する方法です。

 次によく見られるのが、「不動産Aは、妻が取得する。但し、妻は長男に対し代償金として金300万円を支払う。」といった内容の分割方法です。これは、『代償分割』と呼ばれる方法です。例えば、不動産の他に預金があり、その額が長男の法定相続分と同様の額程度存在しているのであれば、不動産は妻が取得し、預金は長男が取得することで足ります(現物分割)。

 しかし、不動産の価額が大きく、長男など他の相続人の相続分を現物で確保できない場合に、この代償分割が採られます。もちろん、必ずしも、長男に対し、代償金を支払う必要があるわけではありません。仮に、遺産が不動産しかなく、それを妻が取得し、長男など他の相続人が、相続分が少なくても、また、仮に全く無くても、その内容で合意できるのであれば、あえて代償金を支払うべき問題とはなりません。

 代償分割は、何らかの理由で、現物分割が適当ではない場合に、遺産取得の代わりに、遺産取得者が、他の相続人に対して代償金という債務を負担する分割方法です。

 最後の分割方法は、『換価分割』と呼ばれる方法です。特に、遺産に不動産がある場合に多く見られます。不動産を売却し、その売却代金から必要経費などを控除した残額を、相続人間で分配する方法です。

 例えば、「不動産Aを売却し、売却代金から仲介手数料などの費用等を控除した金員を、相続甲乙丙が各3分の1の割合で取得する。」などと取り決めます。

 この場合、不動産売却の前提として、原則、相続人甲乙丙名義で、相続登記を申請する必要があります。

遺産分割方法の態様特徴
現物分割遺産を現物のまま分割する方法です。
「不動産Aは、妻が取得し、不動産Bは長男が取得する。」など
代償分割特定の相続人が特定の遺産を取得する代わりに、他の相続人に対し、代償金を支払う(債務を負担する)方法です。
「不動産Aは、妻が取得する。但し、妻は長男に対し代償金として金300万円を支払う。」
換価分割遺産を売却して、その売却代金から各種経費を控除した残額を、相続人間で分配する方法です。

 

遺産分割方法の注意点

 上記3つの類型にしたがって遺産分割協議を行うこととなりますが、その際、しっかりと、各分割方法の注意点を理解し、進める必要があります。

 

代償分割における注意点

①代償金は贈与にはあたらない

 代償分割においては、特定の相続人が、遺産を取得する代償として、他の相続人に対し、一般的には、金員を支払うこととなります。この場合の金員は、贈与とはならず、贈与税の問題は発生しません。あくまでも相続手続の中での分配行為とみなされ、相続税の対象となります(もちろん、相続税を計算する上での、基礎控除を超えなければ、税金は発生しません。)

②代償金の支払能力が必要

 通常、代償分割による遺産分割協議書には、具体的な、金員の額を記載します。例えば、「不動産Aは、妻が取得する。但し、妻は長男に対し代償金として金500万円を支払う。」などです。

 しかし、不動産を取得する相続人が、すぐに代償金を捻出できず、将来その不動産売却後に、その売却代金から代償金を支払いたいと希望する場合があります。こうした際に、安易に、遺産分割協議書に次のように記載すると、税務上、代償分割ではなく、換価分割と捉えられる可能性があり、注意が必要です。

 「不動産Aは、妻が取得する。但し、妻Aは長男Bに対し、代償金として、当該不動産売却後に、売却代金から、各種経費を控除した2分の1の金員を支払う。」

 こうした記載の方法だと、確かに文言として「代償金」と明記されているものの、実質的には、不動産を換価して分配する換価分割に他ならないとみなされる可能性があります。

 あくまでも、代償分割とは、原則、支払能力がある場合にできる分割方法となります。

換価分割における注意点

①不動産売却後に、譲渡所得税が発生する可能性がある

 必ずしも換価分割に限った話ではありませんが(現物分割でも代償分割でも、発生する可能性があります。)、不動産を売却した際、売却益が発生すると、それに対し税金が課されます。これが譲渡所得税です。譲渡所得税の計算は、以下のとおり計算されます。

譲渡所得税とは

分離課税(給与所得などとは合算されない)

所有期間が5年超の長期 :15%の税率(長期譲渡所得)+住民税5%

所有期間が5年以下の短期:30%の税率(短期譲渡所得)+住民税9%

「売却代金」-「取得費(不動産を購入した際の売買代金、建築費など)」+「譲渡費用(不動産仲介手数料、測量費、建物解体費など)」-「特別控除」に上記の税率を適用します。

取得期間及び取得費については、被相続人が取得した日及び購入した代金が引き継がれます。よって、相続の場合は、ほぼ長期譲渡所得税率が適用されます。

特別控除

相続により被相続人が居住していた不動産を令和5年12月31日までの間に売却し、一定の要件に当てはまる場合は、3,000万円を控除できます。

※確定申告の際に、この控除を利用する旨の申告をする必要があります。

 よって、上記の特別控除が適用される場合、譲渡所得税が発生することは稀ですが、詳細は、事案毎に確認する必要があります。

②相続人全員が当事者になる

 換価分割をする際には、一旦、相続人全員が「相続」を原因として不動産を取得します(第1段階)

 次に、その取得した不動産を、売却します(第2段階)

 つまり、全員が、相続による名義変更(相続登記)、不動産の売却(売買契約書の締結、買主への所有権移転登記の際の登記申請)の当事者になることを意味します。売買契約書への売主としてサインをし、その後の買主への所有権移転登記の際にも、全員が買主への所有権移転登記を担当する担当司法書士と面談等する必要があります。

 さらに、譲渡所得税が発生する場合には、各人がそれぞれ申告する必要が生じます。仮に、特別控除を利用することで譲渡所得税が発生しない場合も、その特別控除を利用することを確定申告の時期に申告する必要があります。

 一方、これが代償分割であれば、不動産を取得するのは、特定の相続人ですので、相続登記、売買契約、譲渡所得税の納付は、不動産を取得した特定の相続人だけが行うこととなります。