【浜松市】将来の相続についてしっかり考えましょう【生前対策】
相続時に最近増えている事例
最近、相続手続の依頼に際し、相続人のうち1人が、脳梗塞や認知症等の症例により、手続を行うことができない事例が増えています。
以前からもこのような事例は散見されておりましたが、ここ数年そのような事例が増加傾向にあるように感じます。
相続手続を行う際には、ほぼ全ての事案で、相続人全員で協議を行う必要性があります。通常、これを「遺産分割協議」といいますが、この遺産分割協議は法律行為にあたるため、各相続人には、正常な判断力や意思能力が要求されます。
脳梗塞、認知症等の症例があっても、その程度によっては、必要な判断力や意思能力を有しており、手続を行うことができる場合もありますが、重篤な症例の場合は、遺産分割協議を行うことができません。
また、司法書士が登記の依頼を受ける際にも、登記申請人の本人確認及び意思確認をしなければならず、例えば、遺産分割協議を行わず、法定相続分で登記する場合も、結局のところ、症例がある方の意思確認ができず、登記手続を行うことができません。
このように相続人のうち1人に正常な判断力や意思能力がない場合には、その相続人のために、裁判所に対して「成年後見人」等の選任を求める必要が生じます。成年後見人とは、正常な判断力を有していない方のために、その方に代わって法律行為を行う代理人のことで、裁判所に申し立てをすることにより選任されます。
しかし、この成年後見人等の選任には、相談を受けてから申立をするまで約1か月、申立後、裁判所が成年後見人等を選任するまで約2カ月の時間がかかり、また、申立時には、申立費用に加え、専門家に依頼すれば報酬が発生します。さらに、成年後見人は、相続手続が完了した後も、辞任や解任することはできず、その相続人の死亡時まで、代理人として業務にあたることとなります。
これは、各相続人にとっては、非常に重い負担となり得ます。成年後見人は、あくまでも、その本人である相続人のための代理人であり、本人の不利益になることはできません。したがって、相続手続においては、法定相続分以上の財産を取得することはもちろん、相続手続後も、引き続き業務にあたり、本人のために財産を管理することとなりますが、時として、親族たる他の相続人の希望に沿わない決断をせざるを得ない場合もあるからです。
登記、預貯金、株式といった相続手続は、実は、難しくなく、相続人間で総意さえ得られていれば、あとは事務手続上の話しとなります。『相続』という一過性の手続のために、成年後見人を選任することは、個人的には大仰に過ぎるとも感じます。相続人が未成年の場合は、「特別代理人」といって相続手続のための代理人制度が用意されていることを鑑みれば、同様の手続が用意されるべきとも思いますが、現在の民法の規定上、代替えの手段はなく、正式な手続をするためには、成年後見制度を利用するしかないのが現状です。
現状を理解し、必要な相続対策をしましょう
将来の相続において、問題が発生し、その時になって解決するよりも、事前に起こり得る問題を把握し、そのための方策を採ることで、円滑な手続を行うことができます。一般的に生前対策というと、いわゆる税金関係の対策として受け取られがちですが、必ずしもそれだけではありません。
例えば、以下のような事案があります。
- 父、母、子2人の家族構成で、父が亡くなり、母が認知症だとします。前述のとおり、成年後見人の選任をしなければなりません。母ではなく、他の相続人が何かしらの事情で正常な判断力を有していない場合であっても、同様です。
- 相続人のうち1人が音信不明、あるいは、所在が分かっていても連絡が取れない。この場合、苦労して連絡を取る、あるいは、裁判所に遺産分割調停を申立てるなどが検討できますが、いずれにしろ、通常の相続に比べ、多大な労力と時間が必要となります。
- 相続人の全員が正常な判断力があり、また、連絡も取れるが、相続人間の仲が悪く、遺産分割協議がまとまる見込みがない。この場合も、同様に、裁判所に遺産分割調停の申立てが必要になります。
上記のような事案に際し、有効な対策は、生前に「遺言」を作成しておくことです。遺言では、特定の相続人を指定し、その相続人に対し、財産を相続させることができますが、亡くなった際の手続において、遺言書があれば、遺産分割協議をする必要がなくなり、遺言内容にしたがって、全ての手続を完結することが可能となります。
もちろん、遺留分の問題や認知症の方の権利や生活補助の問題などは、また別の方策が必要となりますが、少なくとも相続手続が滞ることはなくなります。
以下は、遺言について説明した投稿です。そちらでも詳細に説明しておりますので、合わせてご覧下さい。
当事務所では、これまで何件も相続手続に際し、成年後見人等の選任を申立てを行っていますが、生前に遺言書を作成しておけば、より円滑な手続が可能となったのにと感じることも少なくありません。もちろんやむを得ない場合もありますが、生前に色々と検討しておくことは、とても重要ですので、この機会に是非ご検討下さい。