相続土地国庫帰属制度
本年度4月27日から、「相続土地国庫帰属制度」がスタートしています。いわゆる所有者不明土地の解消のために創設される制度で、その名称のとおり、不要な「土地」を国庫に帰属させることができる制度です。
浜松市、磐田市は、農地も多く、相続で取得した土地の管理に問題を抱えている方も少なくないことから、制度開始前から、この制度のことを知り、利用したいと希望する方も相当数おられたのではないでしょうか。
先日のニュースでは、これまでの申請が約1000件、認められたのは今のところまだ1件との報道がありましたが、、相続手続において、農地に多く接する司法書士の立場からすると、巷にあふれている管理不全土地(特に農地)の件数を考慮すると、随分少なく感じます。
以下で、重要ポイントを分かりやすく取り上げていこうと思います。
手続イメージ
手続は、「承認申請」→「審査」→「負担金の納付」という手流れで進みます。法務局で審査され、承認されると、国庫に帰属することとなりますが、その際に管理費用として負担金という名目で20万円を納付することとなります(但し。市街化区域内等の土地については、20万円以上の納付額となる場合もあります)
申請できる土地
本制度を利用して申請できる土地は、以下の要件に当てはまる土地を除くほぼ全ての土地となります。以下(1)の土地に当てはまらなければ、申請することができますが、(2)の土地に当てはまる場合は、申請しても不承認となります。以下の土地に該当しなければ承認されることが原則ですが、いずれにしても、最終的にその申請が承認されるかどうかは、法務局による要件審査を経て決められます。
申請できない土地
(1)申請の段階で却下される土地
まず書面にて申請を行うこととなりますが、その書面審査の段階で却下される土地です。
- 建物がある
- 抵当権などの担保権、賃借権などの使用収益権が登記されている
- 土地所有者以外の者により、現に使用されている
- 土壌汚染がある
- 境界が不明
(2)審査の段階で不承認となる土地
申請が受理され、いよいよ本格的に審査される段階で、不承認となる土地です。
- 勾配30度以上、高さ5M以上の崖がある
- 土地上に放置車両などがある
- 土地上に産業廃棄物、井戸、大きな石などがある(撤去に多大な費用がかかる)
- 土地上に不法占拠者がいる
- 袋地(他の土地を通らないと入れない土地)
- 隣地から生活排水が定期的に流入している
- その他管理、処分に際し、多大な費用、労力が見込まれる
- 土地上にクマなどの動物やスズメバチなどが生息している
- 適切な伐採がされていない森林(多大な費用がかかる)
- 国が金銭債務を負担しなければならない(土地改良事業など)
申請できる人
「相続」によって土地を取得した人が対象です。
取得原因が「遺贈」であっても、相続人であれば、申請可能です(相続人以外の第三者が遺贈により取得した土地は不可)
また、あくまでも「相続」により取得した人が対象であって、「売買」、「贈与」など相続以外の原因により取得した人は利用できません。
相続により取得した人が複数の場合、つまり、土地を共有している場合は、共有者全員で申請を行う必要があります。共有者のうち誰かの同意が得られない場合は、申請できません。
所在が不明な共有者がいる場合も申請できませんが、この場合、令和5年4月1日に施行された改正民法上の新しい以下の規定に基づき、相続開始後10年を経過しているのであれば、不明共有者の持分を取得するなどして申請することが考えられます。また、10年を経過していないのであれば、裁判所で所有者不明土地管理人を選任し、管理人と一緒に申請するなどの方法が考えられます。
費用
申請に必要な費用
土地1筆あたり14,000円
負担金
申請が受理された場合には、国に対し、負担金(国が管理するための費用)を納めなければなりません。
宅地・田・畑(原則) | 200,000円(面積にかかわらない) |
宅地のうち市街化区域内、用途地域が指定れた土地 | 411,000円(50㎡以下)~2,489,000円(800㎡超)まで5段階 |
田・畑のうち市街化区域内、用途地域がしていされた土地、 農用地区域内の土地、土地改良事業等の施行区域内の土地 | 510,000円(250㎡以下)~3,808,000円(4,000㎡超)まで5段階 |
森林 | 254,000円(750㎡以下)~611,000円(12,000㎡超)まで5段階 |
雑種地・原野等 | 200,000円(面積にかかわらない) |
その他実費
申請するための要件の一つに「境界が明らかであること」があります。
隣接する土地の所有者との間で紛争がある場合、国庫に帰属させると、障害が生じるためです。
境界が明らかであることとは、次の2つの要件を満たす必要があります。
- 隣接土地との境界が表示されていること
- 申請者が認識している境界と隣接所有者が認識している境界に相違がなく、争いがないこと
法務省の説明によれば、測量や境界画定書の提出を求めるものではないとされています。仮に測量などを行う必要があるのであれば、測量費(土地家屋調査士に支払う)が数十万円発生するでしょう。
測量を依頼すれば、土地家屋調査士が、隣地との協議なども代理してくれますが、測量せずに申請するのであれば、ご自身で隣地の方に境界について確認することが必要になります。
まとめ
実をいうと、私自身、本制度申請のための要件の一つにある「境界が明らかであること」=「測量していること」であると誤解しておりました。
測量は、比較的面積が小さい宅地であっても数十万かかりますし、農地や山林といった大きな面積になれば、より高額な費用が発生する恐れがあります。
常識的に考えて、市街化区域内の土地を国に帰属させる人は、ほとんどおりません。市街化区域内の土地は価値があるため、売却等ができるためです。よって、本制度を用いるべき土地は、市街化区域外の農地や山林となりますが、これら土地の固定資産税は、年に数百円や数千円程度であることが多く、経済面の負担をそれほど多くありません。
問題は、雑草が生えたり、管理不全による隣地とのトラブルがなどですが、本制度を利用するためには、最低でも214,000円かかり、場合によっては、測量費として、数十万必要になることを考えると、正直、費用対効果の点から利用者数は少なくなるのが自明だと考えておりました。
しかし、仮に測量まで必要がないのであれば、随分と話は変わってきます。
ただし、国庫に帰属できるかどうかは、実地審査などを経て決定され、その過程で測量が必要だと判断される可能性もあります。実際、ある土地家屋調査士の話しによれば、ある窓口に相談したところ、測量せずに申請するこはできるが、実際に国庫に帰属できるかどうかは不明と返答されたとのことです。
いずれにしても、申請段階での費用面の負担は、14,000円(専門家に依頼すれば別途報酬は発生します)ですので、測量していない土地であっても、まずは、申請してみることも検討できるのではないでしょうか。
もちろん、最低でも隣地所有者への確認は必要になるはずですが、当初の負担は、随分軽減されます。
当事務所では、相続土地国庫帰属制度の申請書作成のお手伝いをさせて頂きます。本制度にご興味がある方は、お気軽にお問合せ下さい。
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