戸籍、登記上で使用できる文字

文字

 戸籍はもちろん、登記にも氏名、住所などが記録されます。氏名、住所には通常「漢字」が用いられますが、漢字には、同じ漢字であっても異なる形態があるのはご存じのとおりです。例えば、有名なところでは「はしごだか」の「髙」と「高」などは、実務上も多く見ることがあります。

 現在行政機関で用いられている文字は、法務省が制定した「戸籍統一文字」や総務省が制定した「住基統一文字」で定められており、それらに登載されている文字であれば、戸籍、住民票、また登記記録などにおいても、使用することができます。統一文字上の各文字には、番号があり、それにより何の文字かを判断でき、異なる行政機関においても、使用されている文字を特定することが容易となっています。

 参考リンク『法務省 戸籍統一文字情報

 登記で使用できる文字は、上記の「戸籍統一文字」にさらに文字数を加えた「登記統一文字」で定められています。

 前述の「高」や「髙」も、「戸籍統一文字(登記統一文字)」に登載されており、司法書士は、戸籍住民票等で文字を確認し、それに従って同じ「たか」を用いて登記します。

 「戸籍統一文字」には、漢和辞典に登載されている正字および俗字、常用漢字表に登載された漢字、戸籍法施行規則別表上に登載された漢字その他戸籍で利用可能とされた漢字が登載されています。これら統一文字は、行政事務のコンピュータ化によりそれぞれ整備されたものですが、こうしたコンピュータ化に伴う文字の整理は、平成の初期から開始されました。

 現在、戸籍住民票上で氏名、住所中に用いられている文字のほとんどは、それをそのまま登記上も利用することができます。現在の戸籍データは、ほとんどがコンピュータ化されているため、それを元に登記する場合も、住所氏名に用いられている漢字で苦労することは、実務上あまりありませんが、個人的な備忘録もかねて、これまでの変遷について投稿します。

使用できる文字の変遷

 これまで、いわゆるコンピュータ化が普及するまでは、戸籍等においては、全て「手書き」で記載されていました。実際に、昭和期前半以前の戸籍を見ると、手書きで文字が記載されているのを見ることができます。現在では一般に用いられていない難解な漢字(誤字俗字)も多く登載されています。その後、タイプライターが普及してくると、今度はタイプライターを用いて、文字が記録されていくようになりました。

 手書きの時代は、いわゆる俗字や間違いによる誤字なども多く散見されておりましたが、公簿である戸籍上で用いられる文字については、国民一般に通用する表記を用いることが求められるようになっていきました。

 その後、時代が進み、社会全体のコンピュータ化が普及していくにつれ、使用できる文字につき新たな具体的な指針が必要とされるようになり、法務省が出した通達が以下のものです。

 『平成2年10月20日付法務省民二第5200号通達』

 『平成6年11月16日付法務省民二第7000号通達』

 5200号通達は、当時、将来のコンピュータ化を見越した通達です。

『平成2年10月20日付法務省民二第5200号通達』

婚姻、転籍(本籍を移転すること)等において、あらたな戸籍を変遷する場合には、従前の戸籍において、いわゆる誤字、俗字で記載されていても、それを市区町村長が職権でこれを正字に訂正して記録できる。

 

 7000号通達は、戸籍事務のコンピュータ化に関する通達ですが、次の内容が示されました。

『平成6年11月16日付法務省民二第7000号通達』

  • 漢和辞典に俗字等として登載されている文字は、コンピュータ対応する。(5200号通達で、誤字、俗字一括りとしていた運用をやめ、俗字であっても、漢和辞典に登載されている文字は、使用できることとなった。)
  • 漢和辞典に搭載されていない文字、つまり、書き癖等による誤字については、正しい表記でコンピュータ対応する。その場合、事前に本人に通知する。(但し、国民感情を配慮して、これまでの文字に愛着があり、その旨の申し出があった場合には、それをそのまま移記することもできる。)

 さらに、7000号通達と同時に、「平成6年11月16日付法務省民二第7007号通達」が発出され、あらたに、氏又は名の記載に用いる文字の取扱いに関する『誤字俗字、正字一覧表』が示されました。

 市区町村の住民票、印鑑証明書、新たに編製される戸籍簿などで用いられる漢字は、この一覧表に基づいて、正字等が特定されることとなりました。

「平成6年11月16日付法務省民二第7007号通達」

氏又は名の記載に用いる文字の取扱いに関する『誤字俗字・正字一覧表』が示された。

「誤字俗字・正字一覧表」の登記上の取り扱い

 先の7007号通達は、戸籍行政に対する法務省からの通達となりますが、戸籍行政における文字の取り扱いは、登記にも影響を与えることから、7007号の趣旨に基づく「平成6年11月16日付法務省民三第8198号通達」が発出され、登記手続においても、「誤字俗字・正字一覧表」にあたり正字等を判断することとなっています。

 実際の「誤字俗字・正字一覧表」は以下のようなものになります。

誤字俗字正字

 私が司法書士になった平成25年当時は、既に、前述の戸籍統一文字が整備されており、この表にあたらずとも、登記の添付書類である戸籍住民票等のほぼ全ての文字は、そのまま登記でも使用できる状況でしたが、コンピュータ化以前から司法書士をされている方は、この「誤字俗字・正字一覧表」を参考に、正字等に引き直して登記をする場合もあったと伺っています。

 表上の下段の文字は、「誤字(書き癖等による間違い)」であり、原則、使用すべきではない文字ですが、登記上は、一部使用可能な文字もあります。

 新たに氏名住所を登記上に記録する場合だけではなく、例えば、売買において、売主の登記上の漢字と登記添付書類である戸籍住民票等の漢字が異なる場合、一方が正字等で、他方が誤字等の場合に、文字の同一性を判断する際に用いられています。

「誤字俗字・正字一覧表」上の正字等の定義

 漢和辞典に正字として登載されている文字は、正字等として扱われますが、ここでいう漢和辞典とは、特に特定の辞典を指すものではなく、一般的な漢和辞典を指すと考えられています。漢和辞典の中で、最も権威があるとされる「康煕字典」(中国の清の時代に当時の皇帝 康熙帝によって編纂された辞典)も、その中に含まれます。

 その他、常用漢字表の適用字体、戸籍法施行規則別表などに掲げられた字体なども正字等とされています。