【司法書士】不動産登記における外国人の名前
これまで何件か外国人の方の売買に基づく所有権移転登記等を申請しています。
司法書士であれば常識ですが、不動産登記においては、外国人の名前をアルファベットで記録することができません。よって、通常は、住民票又は印鑑証明書に記載されている通称(カタカタで記載)で登記することとなります。
浜松市の場合、外国人であれば、住民票欄に「通称」という欄があり、そこにカタカナ読みの名前が記録されています。
しかし、つい先日、この通称欄が空欄の方がおり、念のため印鑑証明書も確認させて頂きましたが、カタカナ表記は見当たりませんでした。そのため、市役所に確認したところ、外国人のカタカナ表記による通称については、以下のような取り決めがあるとのことでした。
『印鑑を登録する際に、その印鑑がアルファベットではなく、カタカナ等の日本読みの印鑑の場合のみ、同時に、通称としてのカタカナも市役所のデータベースに記録される。(したがって、印鑑をそもそも登録しない場合は、カタカナも記録されない)』
正直、本当なのかなとも思いましたが、そのような説明でした。確かに、印鑑をカタカナ等で作成される外国人の方もいます。そうした方のみ、カタカナによる通称表記がされる。不思議な運用ですが、とにかく、そのように取り決められているとのことです。このあたりの運用は、各市町村によってまちまちかと思います。
司法書士の場合、登記簿に何かを記録する手続をするにあたっては、何かしらの根拠に基づき手続をします。名前や住所であれば、公的書類である住民票等がその根拠となるわけです。ある意味、司法書士としても、そうした根拠書類があり、それに基づいて手続きすることで安心して業務を行える側面があります。しかし、今回のような公的記録上にカタカナ表記がない方の名前を登記する際は、非常に気を使います。
結局、このような場合は、依頼者の方がカタカナで名前を書けるのであれば、委任状等に署名してもらい、そのカタカナ署名を用いますし、また、もし書けないのであれば、口頭で確認し、それをこちらで文字に起こし、再度、その発音で問題ないかを確認するしかないのでしょう。
外国人依頼者からの事案は、まだ日本人依頼者のそれほど多くはありませんが、それでも、今回のように稀ではあっても発生しますし、今後、ますます増えることは、国際化が進むに比例して自明な気がいたします。
であれば、そろそろ、外国人の方の住所や名前をアルファベット表記することも検討すべきかと思います。
令和2年7月14日に開催された法務省法制審議会民法・不動産登記法部会第15会会議では、この問題についても討論されたようです。以下、公開されている資料中の一文を抜粋します。
部会資料35「不動産登記法の見直し」11頁
登記名義人の氏名等をローマ字からカタカナへ表記を改める際にも明確な基準はなく、実際に登記される氏名等のカタカナ表記が登記ごとに区々になることもある。そのため、例えば、外国人であるAが所有している甲土地と乙土地に共同担保を設定しようとする場合において、甲土地と乙土地とで所有権の登記名義人であるAの氏名のカタカナによる表記が異なっているときは、登記名義人の同一性に疑義が生じ、直ちに抵当権の設定の登記を行うことができないといった事態も生じ得る。
また、登記記録上カタカナによる表記がされている外国人から土地を取得しようとする際、当該登記名義人について本人確認を行うとすると、登記記録上の氏名等の表示と旅券や在留カード、外国人住民票等における氏名等の表示とが一致せず、本人確認が困難になるといった事態が生じ得る。特に、当該登記名義人の所有権の登記に係る申請情報や添付情報が、附属書類の保存期間(平成20年以降は30年間)が経過して登記所内に保存されていない場合には、登記記録上のカタカナによって表記された氏名等しか手がかりがなく、本人確認がより困難となるとの指摘がある。
令和2年7月14日法務省法制審議会民法・不動産登記法部会第15会会議資料35
このように、法務省内でも検討しているということは、近い将来においては、外国人の方のアルファベット表記ができるようになるかもしれません。
最後に、外国人の方の名前、住所をアルファベットで登記できない旨を述べてきましたが、実をいうと、これは、個人である自然人のみの話しであって、会社であれば、商業登記記録上でアルファベット名で登記されている場合は、そのまま不動産登記でもアルファベットを用いることができます。所有権の登記名義人、債務者など、アルファベットで登記可能です。それを考えると尚更、個人の場合だけカタカナを用いる必要があるというのは、何か不思議な気がいたします。