【司法書士】会社と取締役等との利益相反取引

利益相反議事録

 会社関係の不動産登記をする際に、添付書類として、株主総会議事録や取締役会議事録が必要となることがあります。例えば、A会社の不動産に対し、B会社を債務者とする(根)抵当権を設定する際などが、これに当てはまります。そもそも、見ず知らずの会社の債務を自分の不動産上で担保することは、現実的ではありませんので、大抵こうした場合のA社とB社は同じ株主が所有する関連会社であることがほとんどです。さらに、その多くは代表取締役も同一であることも多く、以下の会社法に規定する利益相反取引となります。

利益相反取引とは?

会社法では、第365条第1項及び第365条第1項にて、次のように定められています。

競業及び利益相反取引の制限

取締役は、次に掲げる場合には、株主総会(又は取締役会)において、当該取引につき重要な事実を開示し、その承認を受けなければならない。

  • 取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき。(競業取引)
  • 取締役が自己又は第三者のために株式会社と取引をしようとするとき。(直接取引)
  • 株式会社が取締役の債務を保証することその他取締役以外の者との間において株式会社と当該取締役との利益が相反する取引をしようとするとき。(間接取引)

 このうち、不動産登記手続上は❷と❸の取引が多く見られます。

 例えば、取締役個人が、会社所有の不動産を購入する場合は❷に該当します。❸は少し分かりにくいですが、取締役と会社との間に直接の取引はないが、取締役のために会社にとって負担となるような取引をする場合がこれに当たります。例えば、取締役が銀行から融資を受けた際に、会社がその債務を保証する場合などが典型です。

 利益相反取引には、取締役個人の立場で、会社と取引する場合のみならず、他の会社を代表して会社と取引する場合も含まれます。

「自己又は第三者のためにする」とは?

取締役個人としてはもちろん、他の者の代理人となって行う取引や代表して行う取引が含まれます。

ex:他の会社の代表取締役として取引する場合

 なお、上記会社法の条文に該当しても、会社にとって負担とならず損害が発生する恐れもない取引であれば、利益相反取引とはなりません。取締役から会社への無償贈与、会社から一顧客として物品などを購入する定型的な取引や既存の債務を弁済する行為などは、利益相反取引とはなりません。

「取引」とは?

会社に対して損害を発生させたり、不利益を生じさせたりする行為のこと

ex「売買」、「有利子での貸し付け」、「担保提供」、「債務の保証」などが利益相反取引に該当します。

 

会社間の利益相反取引の具体例

利益相反取引には様々な形があります。単純に、会社と取締役との取引(会社に損害を発生させる恐れがある行為)であれば、もちろん利益相反取引となります。しかし、上記で述べたように、会社間の取引であっても、取締役を同じくする場合に、利益相反取引に該当する場合があります。

 

会社間の利益相反取引

代表取締役を同じくする場合

株式会社A代表取締役甲〇利益相反取引
株式会社B代表取締役甲〇利益相反取引

代表取締役が相手会社の平取締役の場合

株式会社A代表取締役甲×利益相反取引
株式会社B代表取締役乙
取締役甲
〇利益相反取引

 株式会社Bの取締役甲は、相手会社の株式会社Aを代表して取引しているため、B会社にとって(不利益となる恐れのある)利益相反取引となる。

 一方、株式会社Aにとっては、株式会社Bを代表しているのは乙であるため、利益相反取引とはならない(自分の会社の取締役(甲)が、他の者の代理人(代表者)となっていない)。

代表取締役が異なる場合①(一方の取締役が相手方の代表ではない)

株式会社A代表取締役甲
取締役乙
取締役丁
×利益相反取引
株式会社B代表取締役丙
取締役乙
取締役丁
×利益相反取引

 株式会社A及び株式会社Bの代表取締役甲及び丙は、相手方の取締役ではないないため、両社にとって利益相反取引とはならない。

代表取締役が異なる場合②(一方の取締役が相手方の代表)

株式会社A代表取締役甲
取締役乙
取締役丁
×利益相反取引
株式会社B代表取締役丙
取締役甲
取締役丁
〇利益相反取引

 株式会社Bの取締役甲は、相手方である株式会社Aの代表として取引するため、B社にとって、利益相反取引となる。

利益相反取引になる場合にどうすればよい?

 利益相反取引は、家族経営の会社のように、実質的に会社を運営している取締役とその会社が一心同体の存在であっても、法律上は、あくまでも個人と法人である会社は区別して扱わなければならないことから、会社法上に設けられている規定です。

 したがって、こうした取引は実務上も多く発生します。利益相反取引は、禁止されているわけではなく、会社法上で規定される承認を得さえすれば問題ありません。

 具体的には、株主総会又は取締役会にて、承認を得る決議を行うこととなります。

取締役会設置会社取締役会で承認決議を得る(取締役会議事録)
取締役会非設置会社株主総会で承認決議を得る(株主総会議事録)

 承認決議は、それを取締役会議事録又は株主総会議事録として書類に起こしておくことが必要です。

 銀行融資が絡む場合や不動産登記が絡む場合などは、担当する司法書士がそれら議事録を作成しますが、特段、そうした第三者が関与しない場合、例えば、実務上もよくありますが、取締役から有利子、有担保でお金を借りる場合(無利子、無担保で貸し付ける場合は、会社に不利益を与えないため、利益相反取引とはなりません。)などにおいては、ご自身でこうした議事録を作成する必要があります。ご不明であれば、都度、司法書士に相談頂ければ、適正な手続きのアドバイスを得ることができるかと思います。