【司法書士】代物弁済による不動産の名義変更【不動産登記】

代物弁済 

 不動産の名義変更をする際には、何かしらの原因が必要となります。例えば、「売買」であったり「贈与」であったり、また「相続」であったり、法律で規定された原因に基づき、名義を変更することができます。

 参考「不動産の名義変更」

 主な原因は、上記の3つになりますが、実はそれ以外にも多くの原因があり、「代物弁済」も、その一つです。

代物弁済契約とは

 代物弁済とは、文字どおり、「代わりの物で弁済する」ということです。

 一般に、「弁済」というと、単純にお金を返済する的な意味で使用されることが多いと思われますが、民法においては、以下のように定められています。

 

(弁済)

民法第473条 債務者が債権者に対して債務の弁済をしたときは、その債権は、消滅する。

民法

 債務を履行することにより、債権が消滅することが弁済です。

 お金の貸し借りであれば、借主は貸主に対して、借りたお金を返済する義務がありますが、弁済をすれば、貸主の借主に対する債権は消滅します。

 通常、お金を借りれば、そのお金を返すこととなりますが、民法では、お金そのものではなく、他のお金以外の物を債権者に給付することで、弁済となる旨の規定があります。

(代物弁済)

民法第482条 弁済をすることができる者(以下「弁済者」という。)が、債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合において、その弁済者が当該他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。

民法

 例えば、お金の代わりに、宝石や不動産を代わりに給付することで、元々の借りたお金を返すという債務を消滅させることができます。もちろん、勝手に、別の物で弁済することはできず、債権者との間で契約を締結することが必要です。

不動産登記における代物弁済

 不動産登記においても、「代物弁済契約」を原因として、名義を変更することができます。

不動産登記における代物弁済契約を原因とした所有権移転の例

借金に代えて不動産を給付する契約

1000万円を借りている借主が、1000万円の支払いに代えて、貸主に対して、借主が所有する不動産の所有権を移転します。

退職金の支払いに代えて不動産を給付する契約

退職金の支払い債務を負っている会社が、退職金の支払いに代えて、退職者に対して、会社所有の不動産の所有権を移転します。

建物の増築費を負担した者に対して、不動産の一部を給付する契約

子が、父所有の建物をリフォームし、建物の価値が増加した場合に、父は建物価値増加分の利得を得ることとなり、子は父に対し、父が得た利得分を請求する権利を得ます。この父の子に対する債務(償金支払債務)に代えて、父所有建物の一部(持分)を移転します。

代物弁済の効果

 前述のとおり、代物弁済契約をすることで、代わりに給付した物の所有権は、債権者に移転します。移転する日は、移転日の特約がなければ、契約をしたその日です。

 これまで、代物弁済契約は、要物契約と主張されてきました。要物契約とは、契約による約束では足りず、実際に、契約の対象物を引き渡して初めて成立する契約のことです。

 その理由は、以下の旧民法の規定にあります。

改正前民法482条

債務者が、債権者の承諾を得て、その負担した給付に代えて他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。

 「契約」という文言は使用されておらず、あくまでも、「給付したときに」と規定されるのみであったため、給付が条件の契約、つまり要物契約であると捉えられてきたのです。しかし、従来から、以下の判例などにより、諾成契約であるとする見解が有力となっていきました。

最高裁昭和57年(オ)第—号同年6月4日第二小法廷判決・裁判集民事一三六号三九頁

不動産所有権の譲渡をもつてする代物弁済による債務消滅の効果は、特段の事情のない限り、単に代物弁済契約の意思表示をするだけでは生ぜず、所有権移転登記
手続を完了した時に生ずるが、このことは、代物弁済による所有権移転の効果が、原則として当事者間の代物弁済契約の成立した時にその意思表示の効果として生ず
ることを妨げるものではないと解するのが相当である。

 また、現行の改正民法上の代物弁済の規定も、「債務を消滅させる旨の契約をした場合において」とされたことにより、代物弁済は、諾成契約であることが明らかとなりました。諾成契約においては、特約が無い限り、契約日が効力発生日となりますので、不動産登記における、所有権移転の原因日は、代物弁済契約日となります。

(代物弁済)

現行民法第482条 弁済をすることができる者(以下「弁済者」という。)が、債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合において、その弁済者が当該他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。

民法

 一方、債務も消滅することとなりますが、その時期は、契約日ではなく、実際に給付をしたときとなります。

 宝石をもって代物弁済するのであれば、実際に、その宝石を債権者に引き渡したときに、債務が消滅します。不動産の場合、登記をすることで対抗要件が備わることもあり、所有権移転登記を申請した日が「給付日」にあたり、その時債務が消滅するという見解が有力です(登記に必要な書類一式を債権者に引き渡すことが給付にあたるとした判例もあります。)