【司法書士】有限会社の株式会社への移行方法

有限会社の株式会社への移行

 平成17年に現行の会社法が成立し、翌年に施行されて以来、旧有限会社は、一(イチ)株式会社となりました。

 元々、旧有限会社制度は、家族経営の中小企業が多い日本の企業文化に基づき成立したものでした。「株式」ではなく、「持分」を基本とした出資形態をとり、株式を発行して資金調達を図ることを前提とする株式会社とは異なり、あくまでも、狭い限られた範囲でのみ出資を募り、会社を運営していくものでした。

 株式会社の一つとなってからは、こうした定義は改められ、持分は株式に変更され、株式会社と同様に株式を発行することができ、社債も発行できるようになりました。但し、旧有限会社は、「特例有限会社」として、その商号中に有限会社という文字を残さなければならず、現在、この特例有限会社という会社は、通常の株式会社と明確に区別できる運用がされています。

 平成18年の会社法施行時、私はまだ司法書士ではありませんでしたが、多くの旧有限会社が株式会社へと移行したとのことです。これは、元々旧有限会社そのものが閉鎖的なイメージがあったことから、それを払拭するために、株式会社に変更する例もあったのでしょう。

 しかし、現在、有限会社は、株式会社の一つに過ぎないということは周知されており、特段閉鎖的なイメージもなく、株式会社が簡単に設立できるようになったこともあって、乱立する会社の中においては、むしろ歴史ある会社としてプラスのイメージすらあります。

 

 

特例有限会社の株式会社へ移行するための実体上の手続

 そのため、最近では、有限会社を株式会社に移行する手続きは少なくなっています。株式会社に変更すると、役員の任期も最長10年までになり、役員変更登記が10年毎に発生するなどの手続上の煩雑さも生じることもあり、あえて、株式会社に移行せず、そのままの形態でいる特例有限会社が多くなっていますが、例えば、取引先の要請などの、やむを得ない理由から、株式会社に移行する場合もあります。

 特例有限会社の株式会社への移行は、難しくありません。株主総会を開催し、株式会社となる定款変更を決議することとなります。

会社法の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(以下「整備法」)

第四十五条 特例有限会社は、第三条第一項の規定にかかわらず、定款を変更してその商号中に株式会社という文字を用いる商号の変更をすることができる。

 前項の規定による定款の変更は、次条の登記(本店の所在地におけるものに限る。)をすることによって、その効力を生ずる。

 

定款の作成

 株主総会を開催する前提として、まず株式会社となった以降の定款を作成します。例えば、これまで、旧有限会社の定款をそのまま使用していた場合などは、ほとんど全ての定款条項を変更する必要もあるでしょう。

 その定款上の商号の項目(大抵は、一番最初の第1条で定められています。)を有限会社〇〇から株式会社〇〇へと変更します。この際、例えば有限会社ABCという会社が、株式会社に移行するにあたり、株式会社XYZというように、違う商号に変更することもできます。

 また、発行可能株式総数、株式の譲渡制限の規定など、旧有限会社が特例有限会社となった際に、職権により登記されていた項目についても、この際に変更しておくと、後々に変更する手間が省けるだけでなく、経費の削減にも繋がります。

特例有限会社の登記事項

①発行可能株式総数

 発行可能株式総数とは、会社が発行できる株式数の上限を定めた規定です。定款の記載事項であり、かつ、登記事項となっています。株式ではなく持分による出資形態であった旧有限会社においては、平成18年の会社法施行時、持分=株式となり(整備法第2条第2項)、発行可能株式総数は、実際に発行された株式数と一緒となる取扱いがされました(整備法第2条第3項)。例えば、発行済株式数が100株であれば、発行可能株式総数も、また100株となります。

 よって、将来100株から150株に変更したい場合には、定款内容を変更する必要があるところ、株式会社への移行の際に、この発行可能株式総数も一緒に変更しておくと、後日、再度定款変更をする必要がありません。

②株式の譲渡制限に関する規定

 株式の譲渡制限の規定についても、会社法施行時に、一律、「株式の譲渡の際には、会社の承認を要する。株主間で譲渡する場合には、会社が承認したとみなす。」という規定があるとみなされることとなりました(整備法第9条第1項)。この規定は、特例有限会社である限り、変更できないこととされいますが(整備法第9条第2項)、株式会社においては、このような制限はありませんので、自由に変更できます。

 なお、特例有限会社の取締役に任期はありませんでしたが、株式会社においては、取締役の任期は、最長で10年とされています。任期規定についても、あらたな定款内で定めていくこととなります。

株主総会の開催

 定款を作成したら、次は、その定款を株主総会で決議しなければなりません。定款変更をするためには、特別決議が必要です。

 会社法第309条第2項前段「議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合)以上に当たる多数をもって行わなければならない。」

 整備法第14条第3項「特例有限会社の株主総会の決議については、会社法第三百九条第二項中「当該株主総会において議決権を行使することができる株主の議決権の過半数(三分の一以上の割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)を有する株主が出席し、出席した当該株主の議決権の三分の二」とあるのは、「総株主の半数以上(これを上回る割合を定款で定めた場合にあっては、その割合以上)であって、当該株主の議決権の四分の三」とする。」

 また、この際、定款変更だけではなく、役員の選任登記も行うことが一般です。

 というのも、特例有限会社においては、役員の任期制限がなかったところ、株式会社への移行後は、任期が制限され、最長で10年までとなるからです。詳細は、以下のとおりです。

 

有限会社の株式会社移行時における取締役の任期

取締役の就任日令和5年2月に株式会社へと移行時の取り扱い
A 平成元年1月1日就任任期満了退任
B 平成30年1月1日就任そのまま任期中
C 株式会社移行時にあらたに就任株式会社移行時に就任

 株式会社においては、役員の任期は、通常、定款で定めることとなります。有限会社のような家族経営の会社においては、株式会社移行時に、任期については最長の10年とすることが一般です。

 上記のAについては、株式会社移行時に、任期満了退任となります。一方、Bについては、平成30年よりまだ5年しか経っておらず、10年任期とした場合、まだ任期は残っていることから、そのまま任期中となります。

 仮に、株式会社移行時の取締役をABCの3名としたい場合は、AとCについては、株式会社移行を条件として、定款変更をした株主総会において、選任決議を行う必要が生じます。

 

有限会社の株式会社移行時における代表取締役の選定

 株式会社への移行時に、取締役及び代表取締役に変更がなければ(つまり、取締役の任期が切れていない場合)、従来からの代表取締役がそのまま代表取締役となります。しかし、通常は、任期切れなどにより、改めて取締役を選任し、さらに、代表取締役を選定することが多い気がします。

 株式会社では、各自代表といって、各取締役が代表権を持つ場合もありますが、取締役が複数名いる場合は、そのうち1名ないし2名が代表取締役となることが多く、その選定方法は、①定款②株主総会③取締役の互選があります。なお、取締役会を置く会社においては、取締役会で選定することとなります。

 株主総会で代表取締役を選定するのであれば、株式会社への定款決議及び取締役の選任決議に加え、株式会社への移行を条件として、代表取締役の選定決議も行います。互選による場合は、有限会社時の取締役と、株式会社移行時の取締役の構成が同一であれば、互選決議を行うことができる一方、同一でない場合には、互選決議ができないため、定款で定めることとなります。

 

代表取締役の選定方法決議方法
株主総会株式会社移行に係る定款変更決議をする株主総会において、代表取締役の選定決議も行う。
互選(取締役ABC→ABC)取締役の構成が同一のため、予選による代表取締役を選定する。
互選(取締役ABC→ABD)取締役の構成が同一ではないため、予選決議不可。定款において株式会社移行時の代表取締役を定める。

特例有限会社が株式会社へ移行するための登記上の手続

 株主総会において、定款変更決議を行い、必要に応じて、取締役の選任等の決議を行うことにより、実体上の準備は整いました。しかし、まだ、株式会社移行の効力は発生していません。

 有限会社が株式会社となる効力は、その旨の登記をしたときに発生します(整備法第45条第2項)。したがって、令和5年2月1日に登記申請を行えば、2月1日が株式会社への移行日となります。あらたに株式会社を設立する登記と同一ですが、これは、整備法上で、株式会社となる定款変更決議をした場合には、有限会社については、「解散」の登記を行い、商号変更後の株式会社については、「設立」の登記を行わなければならない旨が定められているためです。これら解散及び設立登記は、同時にしなければならず、かつ、定款変更決議から2週間以内に行わなければなりません。

 なお、株式会社への移行は、商号中に「株式会社」という商号を変更した旨の株主総会決議だけで足りますが、先に述べたように、将来の運用を見越して、発行可能株式総数や譲渡制限の規定などの登記事項も合わせて新しい内容で登記することが可能です。但し、本店移転の登記及び支店設置の登記(当該支店の所在地内に初めて支店を設置する場合)は、登記手続上、一緒に行うことができません。

 また、株式会社への移行に際し、登記所届出印(代表印)も新調することも通常です。この場合、古い印鑑カードは、一度返却する必要があり、登記完了後に、新しい印鑑カードを受領できます。

 

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