相続で揉める理由とは

争い

何故、相続で揉めてしまうのでしょうか?

 相続においては、何事もなくスムーズに進行する場合と、問題が発生し、手続きが滞る場合があります。相続手続が滞ると、最終的には、遺産分割調停や審判などの裁判手続で解決するよりほかなく、こうした場合、時間がかかってしまうだけではなく、各相続人の精神的な負担も増加し、日々の生活に支障をきたすことも考えられます。

 相続で揉める要因は、ほとんどがコミュニケーション不足から生じるものです。互いに決して悪気がなくても、ちょっとした気持ちのずれが、結果的に大きな関係の亀裂へと繋がることもあります。

 相続財産は高額となる場合もあり、その場合は、今後の各相続人の生活にも大きな影響を与えます。また仮に高額とならない場合であっても、近しい親族という間柄だからこそ、人間の内面の感情が表に出やすくなる側面もあります。

 相続人間のみで解決できないような場合には、当事務所にご相談頂ければと思いますが、司法書士には家事代理権がありませんので、遺産分割協議の成立サポートはできても、あくまでも中立的な立場でご支援するにとどまります。よって、相続人間で協議をスムーズにまとめて頂くためにも、相続手続において気を付けて頂くべきことを、次項においてまとめましたのでご覧下さい。

相続で揉めてしまう要因

①相続財産を明確にしない

 相続財産には色々な種類があります。現金、預金、不動産、株式などの有価証券、生命保険、なかにはゴルフ会員権などもあります。こうした財産については、お亡くなり後、相続人全員で管理している場合よりも、お亡くなりになった方と同居されていた相続人や近くに住んでいた相続人などの一部の方が管理しているのが通常です。

 その管理している相続人にとっては、遺産の内容は明らかであっても、他の相続人にとっては、当然ですが、その内容は分かりません。こうした場合に、その管理している相続人主導で、他の相続人に対して遺産内容を明確に説明することなく、手続きを進めようとすると、問題が生じることがあり得ます。

②一部の相続人主導で協議を進める(遺産分割協議書を勝手に作成する)

 「遺産分割協議書を突然渡され、押印を求められた」などの相談を受けることがあります。これも上記①に類似していますが、問題化しやすい行動です。かつて、日本社会は家督相続制度があり、長男や本家の人間が財産を全て相続することが当り前でした。そのため、今日においても、一部の方はそうした考え方を持っている場合もあり、押印するのが当り前のごとく、このような行動をとることがあります。

 しかし、相手方からすれば、内容がよく分からない書面に対し、実印で押印することを躊躇うのは当然です。仮にその相手方にとって協議書の内容自体は受け入れることができる内容であったとしても、その進め方に不満があれば、押印を拒み、協議が難航することが予想されます。

③相続財産を隠匿する

 当然ですが、遺産については、その全てを各相続人にオープンにしなければなりません。また、隠匿している意図はなくとも、結果的に漏れている遺産があった場合には、余計な詮索をされかねませんので注意が必要です。

 そもそも、仮に遺産を隠匿して自己に有利に協議を運ぼうとしても、後日ほぼ間違いなくそうした行為は明らかとなります。被相続人の遺品整理などで関係書類が判明することもありますし、また、どの遺産であれ、その名義を変更するためには、相続人全員の同意を証する書面が必要となるからです。また、現金であっても、④にても説明しますが、同様に明らかとなります。

④生前に預貯金から多額の引落し(引出し)がある

 これもよくある事例です。生前に被相続人口座から多額の引落が行われているケースがあります。こうした場合には、それが原因となって協議が難航する場合も多いように見受けられます。

 通帳があれば、通帳記録からその事実が判明しますし、仮に通帳自体を意図的に隠匿しても、各金融機関に問い合わせれば、被相続人の口座がそこにあったかどうかが判明し、出金の事実があればそれも明らかとなります。

 意図的に財産を取得する目的でそうした行為をするのは、もちろんしてはいけないことですが、理由があって、そうせざるを得なかった場合もあるでしょう。例えば、生前に被相続人自身の医療費などの支払いのために引き出した場合や認知症等により被相続人が財産を費消するなどの懸念があり、その財産を守るために引き出す場合などです。

 これらの場合には、引き出した方には決して悪気はありませんが、他の相続人からみると、不可解な行動に映ってしまいがちです。そのため、やむを得ずこのような行動をする際においては、事前に他の相続人に対し説明しておくことが必要となります。事前に説明ができない状況があるのであれば、家計簿のようなもので構わないので記帳し、出金額と費用等に充てたレシート・領収書などを保管しておくことが肝要です。

 また、お亡くなりになる直前や直後に、お葬式代等のために、口座が凍結される前に引き出しておくことも散見されます。こうした場合にも、同様に、他の相続人に対し、しっかりと説明できるようにしておくことが大切です。

⑤生前の贈与がある

 生前に特定の相続人への贈与がある場合は、民法上も「特別受益」として、協議においてこれを前提とすることができる旨が定められています。但し、必ずそれを反映しなければならないわけではなく、あくまでも優先するのは、相続人の協議となりますので、そうした生前贈与を考慮せずに協議をすることも可能です。

 通常は、こうした事実がある場合は、やはり、生前に贈与された方は遠慮して、自分の相続分の減少を受諾すること多いと思われますが、中にはこの贈与が原因となりスムーズに協議が進まない場合もあります。

 いずれにしても、相続人間の公平性を考慮すると、贈与を受けた方は、その分は自己の取得する相続財産額が減少することを前提で協議に臨まれるべきかもしれません。

⑥生前に被相続人の介護をしていた

 生前、お亡くなりになった方の介護をしていた方も多くなっています。介護は大変な負担ですから、介護していた本人にしてみれば、その分はせめて取得する遺産額を増やしてもらいたいと思うのは、致し方ありません。

 民法においても、「寄与分」という制度があり、遺産分割協議においては、これを考慮して協議を進めることができる旨規定されています。

 しかし、前項の特別受益と同様に、協議する上で考慮するかしないかは、相続人次第となります。現実には、寄与分を考慮し、その旨を書面にまで記載した遺産分割協議というのは稀かもしれませんが、遺産を分配する前提としてその負担については考慮しながら決められることが多いように思われます。

 やはり、大変な介護されていた方のお気持ちを無視して進めてしまえば、協議自体が破綻することも十分に考えられますので、その辺りは十分ご注意下さい。

⑦生命保険金額が不公平である

 生命保険は、その保険者と受取人等によって、相続財産となる場合とならない場合があります。相続財産となる場合であれば、それも含めて協議を行えばよいのですが、相続財産とならない保険金があった場合に問題が起こり得ます。

 相続財産とならない保険金は、特定の相続人が当然に取得することとなりますが、仮に、そうした法律上の解釈は理解できても、やはり人間ですから、不公平感を感じてしまうのは致し方なく、協議が難航する可能性があります。

⑧不動産が多い

 これは直接的に相続人間で揉める原因ではありませんが、不動産が多いということは、現金で公平に遺産を分けることが難しくなります。

 例えば、5,000万円の不動産があるとします。その不動産を将来的に売ることができるのであれば、換価金を分割することが可能となります。しかし、その不動産が、例えば長男家族が暮らす住居だった場合などには、その不動産を売ることはできません。

 長男がその不動産を取得した場合、長男だけが5,000万円の遺産を相続したことになり、他の相続人においては、それが不満となりかねません。

 厳密に分割するのであれば、長男は他の相続人に対して、法定相続分に基づいた金銭を渡すこととなります。相続人が長男、長女、次女であれば、長男は、長女及び次女に対し、約1,700万円弱の現金を渡す代わりに、この不動産を単独取得することとなります。しかし、現実には、合わせて3,000万円以上の現金を用意することは簡単ではありません。

 こうした場合において、絶対の解決方法というものはありません。あくまでも、相続人間で協議し結論を出すしかありませんので、長女、次女が仮に強硬に法定相続分相当の遺産を求めた場合は、上記のように金銭を渡すか、あるいは、不動産を共有にて取得するしかないのが実情です。

 実務においても、こうした事例は少なくありませんが、そうした場合は、法定相続分相当までの多額の金銭ではなく、いくらかを長女、次女に渡すことで、長女次女に納得してもらい協議をまとめることが多いようです。

⑨相続人以外が意見を述べる

 相続人以外とは、例えば、ある相続人の配偶者などです。例えば、その相続人がご病気で、率先して協議に加わることができない事情等がある場合は仕方ありませんが、そのような事情がないにも関わらず、配偶者の方が率先して協議に参加しようとしたり、あるいは、相続人間の連絡の間に入ろうとすることは、その行為自体が、不満へと繋がる場合があります。

 したがって、やむを得ない事情(例えば上記のようなご病気だったり、ご自身の配偶者(相続人)が明らかにおかしい分割を求めらておりその相続人だけでは解決できる見込みがない場合など)がない限りは、まずは血族同士の協議を尊重する姿勢が重要です。

 

円満な相続を行うためには

 上記で、相続が問題化しやすい事例をいくつかご紹介しましたが、例えば、遺産を隠匿した場合や勝手に遺産分割協議書を作成した場合などの極端な事例を除けば、こうした事例全てが必ずしも問題化するわけではなく、円満に手続きが完了する場合も多くあります。

 結局冒頭で申し上げたとおり、多くの場合、ちょっとしたコミュニケーション不足から問題が生じることも多いような気がします。

 例えば、お亡くなりになった際には、お葬式が執り行われ、相続人が顔を合わせることになるかと思います。また、それとは別の機会で集まることもあるかもしれません。こうした場において、遺産を管理している方が、ちょっとした会話の中で、「〇〇の不動産は私がもらうけど、これは貴方がもらっていいよ」などと発言したことが、将来の協議に支障をきたす場合などもあるかもしれません。

 もちろん、その方と相手方との関係性にもよりますが、中には相続財産の詳細が分からないのに、いきなり希望を押し付けられたと受け取る方もいます。言ったご本人は、あくまでも世間話程度で、しっかりとした協議はあらためて行うことを意図していたとしても、相手方がその気持ちを汲んでくれるとは限らないのです。

 したがって、まず、行うべきは、相続財産を明確にし、それを各相続人に対し、オープンに説明することです。兄弟間で関係性が深く、むしろ余所余所しくすることがよくない結果に結びつくこともあり、この辺りは各ご家庭やご関係に応じてということになりますが、ちょっとした発言が後日に支障をきたすこともあることは考慮して頂いた方がよいかもしれません。

 財産を明確にするに際しては、本来であれば書面で財産目録を作成することがベストですが、そこまでできない場合は、手書きでも構わないので、何かしらの書面に財産の一覧を書き、それをもって他の相続人に説明するとよいでしょう。

 預貯金であれば、その金額も記載し、不動産であれば、便宜、固定資産評価額でよいでしょう。この作業は、結局のところ遺産を管理している方が行うよりほかありません。面倒な作業かもしれませんが、後日もっと大変な状況に陥らないためにも、怠らず行って頂くことをお勧めします。

 また、遺産ではないもの、例えば生命保険で受取人が特定の相続人であるものであっても、他の相続人に方に対して説明しておく方がよいでしょう。あとで判明した場合には、関係性を大きく損なう場合もあり得るからです。

 遺産分割協議においては、一人でも押印することを拒めば、協議が成立しません。無理に押印させることはできませんし、仮にそのようなことをさせれば、後日、遺産分割協議無効確認の訴えなどを提起されることもありますのでご注意下さい。

 重要なことは、相続手続きにおいては、とにかく「公平性」が不可欠です。現実には、完全に法定相続分に応じた分割をすることは不可能ですが、それでも、各相続人がそうした姿勢で協議することで、信頼がより深まり、それが円満な相続手続きに繋がっていきます。

 

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