珍しい?登録免許税の軽減措置

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登録免許税とは

 不動産登記を申請する際には、登録免許税を納付する必要があります。所有権移転登記、抵当権設定登記、抵当権抹消登記、住所変更登記等の申請する登記の種類によって、その税額は異なります(以下のボタンをクリックすると主な登記の登録免許税額をご確認いただけます。)

 通常、不動産の購入は一生に一度の大きな買い物ですから、不動産の登記を申請する際に、税金を納める必要があるということは、実はあまり知られていないような気がします。マイホームを購入する際にも、登録免許税は様々な経費の中の一つに過ぎない事、また、登録免許税を含む司法書士費用は、報酬を含んだトータルの登記費用として案内されることが通常なこともあって、尚更、税金を納付していると意識されている方は少ないのではないでしょうか。

 浜松市内の戸建用土地の売買であれば、農地や市街化区域内の宅地等によって幅はありますが、一般的な話として、高くても登録免許税15万円程度だと思われます(土地の売買による移転における税率は0.015ですから、評価額1,000万円)。一方で、首都圏であれば、23区内の駅前ビル等では、建物だけでも億超えは珍しくなく、登録免許税も数百万円や時には1,000万オーバーすることも珍しくないでしょう。

 こうした、税額に差はあるにしろ、決して安くはない税金となる登録免許税ですが、何故、不動産登記を申請する際に税金が発生するのでしょうか。内閣府の資料によれば、平成12年7月14日の税制調査会において、昭和38年11月28日の東京地裁の判決をもとに以下のように結論づけています。

昭和38年11月28日東京地裁判決

 登録税(登録免許税の前身)は登録を申請する者が登録をうけた場合それにより何らかの利益を享受するであろうことに着眼して国の財政収入の目的から課される一種の租税であって、単なる手数料ではなく、以下略)

登録免許税の課税根拠/平成12年7月14日税制調査会

 登録免許税は、国による登記、登録、免許などを課税対象に、登記などを受ける者に対して、不動産の価額などを課税標準として、登記などの区分に応じた比較的低い税率で負担を求める税です。また、登録免許税は、基本的に、登記などによって生じる利益に着目するとともに、登記・登録などの背後にある財の売買その他の取引などを種々の形で評価し、その担税力に応じた課税を行うものです。

 要約すると、「不動産を買う人は、不動産を買うだけの資力があるのだから、税金を負担することもできるはずだ(担税力がある)。だから、登記を申請する際には、登録免許税を課す」ということです。納得できるような、納得できないような理屈ですが、いずれにせよ、登記を申請するためには、国に税金を支払わなければなりません。

登録免許税の軽減措置

 税金を課すことが国等の施策の一つである一方、不動産の流通を促進することもまた国等の施策の一つです。特に、個人の自宅、つまりマイホーム購入に係る不動産流通は国等の重要な施策です。マイホーム購入の際には、多額の資金が必要となりますが、本体の「家」そのもの以外にも、不動産取得税や将来的には固定資産税などの税金が発生します。これらの税金について、国等は、マイホーム購入者の負担を緩和するために、各種の軽減制度を用意しており、登録免許税においても、同様の措置が取られています。

 詳細は、上記のボタン先にありますが、大枠をお話すると、①個人であること②常識的な範囲のマイホームであること(豪邸は×)③建築後又は取得後一定期間以内に登記すること④実際にそこに住むこと、以上の要件を満たすことで、マイホーム購入の際の登録免許税額が軽減されます。

珍しい?登録免許税軽減措置

 登録免許税の軽減措置等は、上記のマイホームに関する以外にも、実は多くのものがあります。

 例えば、日本政策金融公庫からの借入に伴う(根)抵当権の設定登記の登録免許税は、非課税となる場合があります。また、農業信用基金協会の(根)抵当権も登録免許税が軽減されます。

 このように、本則の税率とは異なる措置が多く取られている登録免許税ですが、司法書士であれば、こうした措置に精通していることが求められます。登録免許税額は、依頼者の負担にも直接的に係ってくる部分ですから、間違いは許されません。単純な計算ミスはもちろん、仮に、軽減措置があるのに間違って本則で登記してしまっても、軽減措置の税額と本則の税額の差額は戻ってきません。そのため、実務においては、登録免許税の計算は、司法書士にとって非常に気を遣う部分です。

 こうしたことから、司法書士の性として、何か特殊な登記が発生すると、適用される登録免許税の軽減措置等がないか、まず確認するのが通常です。

 実は、3年位前から、あるハウスメーカーの建売住宅の売買に伴う登記をすることがあるのですが、その際の登録免許税の軽減措置が、どうやら珍しい?ものであるようです。

 通常、建売住宅の売買に伴う登記は、①土地の所有権移転②買主名義で建物の所有権保存登記が一般的です(私は他のメーカーの建売住宅を登記したことがないのですが、そのような手続きが多いと聞いています)。一方、不動産登記法には、以下の条文があります。

不動産登記法第47条第1項

 新築した建物又は区分建物以外の表題登記がない建物の所有権を取得した者は、その所有権の取得の日から1月以内に、表題登記を申請しなければならない。

引用元 不動産登記法

 そのハウスメーカーは、前述のような買主名義での保存登記を申請するのではなく、一旦、ハウスメーカ名義で表題登記及び所有権保存登記をした後で、土地と一緒に建物も所有権移転登記により買主に移転します。

 上記条文の解釈ですが、前段の「新築した建物の所有権を取得した者」には、注文住宅などにおける建築主が該当することに異論はありません。一方、後段の「表題登記がない建物の所有権を取得した者」については、これを建売住宅のように売れるまで表題登記がない建物の所有権を取得した者、つまり、建売住宅の買主とする解釈もあるようです。

 しかし、建売住宅の原始所有者は、施工者であるハウスメーカーですので、前段の新築した建物の所有権を取得した者にも該当しますから、まずはハウスメーカー名義で所有権保存登記を行うのが本来の手続きともいえます。

 いずれにしても、多くのハウスメーカーにおいて、建売住宅については、買い手がつくまで、表題登記をせずに、売れた後に、買主名義で所有権保存登記をすることが多いようです。

 3年位前に、そのハウスメーカーから建売住宅の所有権移転登記を依頼された際に、念のため、中古ではない新築相当の建物の所有権移転に関する登録免許税について確認するために、「租税特別措置法」という法律を確認したところ、次の条文がありました。なお、当該建売住宅は、長期優良住宅です。

 

租税特別措置法74条第2項

 個人が、特定期間内に建築後使用されたことのない特定認定長期優良住宅の取得をし、当該個人の居住の用に供した場合には、当該特定認定長期優良住宅の所有権の移転の登記に係る登録免許税の税率は、財務省令で定めるところにより当該特定認定長期優良住宅の取得後一年以内に登記を受けるものに限り、前条及び登録免許税法第九条の規定にかかわらず、千分の一(一戸建ての特定認定長期優良住宅にあつては、千分の二)とする。

引用元 租税特別措置法

 この条文によれば、当該建売長期優良住宅の所有権移転は、①個人であること②未使用であること③居住の用に供する④特定期間内(令和4年3月31日まで/ブログ作成時)に取得する、以上の要件に該当するため、その税率は0.002となることが分かりました。

 ところで、登記をする際には、法務局に対し、こうした軽減措置が適用される住宅であることを証明するために、事前に、市町村役場で、住宅用家屋証明書という書類を発行してもらわなければなりません。

 しかし、3年前、市役所に行き、証明書の請求したところ、何故か窓口の職員と話が嚙み合いません。通常、市役所の方も、住宅用家屋証明書の発行は慣れているものなのですが、今回に限っては、どうも今までこの条文(及び租税特別措置法施行令、租税特別措置法施行規則)に基づく証明書を発行したことがないようでした。

 つまり、ほとんどの建売住宅が、買主名義で所有権保存登記がされるため、未使用の建売住宅を所有権移転することが実務上ほとんどなく、それに伴う住宅用家屋証明書の発行もされていなかった、というのが実情のようでした。

 最終的には、市役所の方にも条文を説明し、必要な家屋証明書を発行してもらうことができ、その後は無事に所有権移転登記も完了しました。

 その後も、そのハウスメーカーからの依頼で、同じような建売住宅の所有権移転登記を申請していますが、以前、この話を知り合いの2名の司法書士にしたところ、両名ともこの税率の存在を知りませんでした。また、法務局からも、2回ほど、登録免許税率は0.003(未使用ではなく中古建物の所有権移転の軽減税率)ではないのかと、連絡がきたことがあります。その都度、この条文のことを説明し、登記を完了しています。

 申請自体は、一般的な所有権移転登記であり、また、軽減措置自体も、司法書士にとっては基本の租税特別措置法記載のものであることを鑑みると、売買による土地の所有権移転登記や先の中古建物の所有権移転登記と同じ一般的な登記なのでしょうが、こうした状況を実際に体験すると、やはり、「珍しい?登録免許税の軽減措置」であり、レアな申請なのかもしれません。